グローバル人材マネジメントの戦略とロードマップづくり

1.6つの軸で人材マネジメントを改革

前回までの寄稿で、時代背景はわかった。それではどうやってこれらに対処していったらいいのだろうか。各社は試行錯誤を繰り返している。何から手をつけていいのかわからないというグローバル人事担当者も多いだろう。そこで筆者は、次の7つのフレームワークでグローバル人材マネジメントの戦略とロードマップをつくることを推奨している。

(1)「人事戦略」の定義
(2)「組織体制」の定義
(3)「人事業務プロセス」の設計
(4)「IT」の活用
(5)「コミュニケーション」施策の実行
(6)「トレーニング」施策の実行
(7)その他

【図表】グローバル人材マネジメントを考える7つのフレーム

 

(1) の「人事戦略の定義」とは、自社の経営戦略と表裏一体の関係にある人事に関する戦略を明示することである。

具体的には、なぜ人材を必要とするのか?なぜ自社で働くことにメリットがあるのか?といった根本的な目的を明らかにすることから始まる。次に、どのような人材で勝ち抜いていくのか?求める人材像は何か?といった目指す人材の姿を明らかにする。

その上で、どのような労働市場で自社は活動するのか、どのような人材を獲得・活用するのか、報酬水準はその労働市場の中でどの位置づけにするのか?自社は何に対して報いるのか?といった人材マネジメントのポリシーを明らかにする。

最後に、獲得・活用する人材に徹底したい価値観は何か?どのような人材マネジメントの仕組みや仕掛けを取り入れるのか?国境・国籍の考え方をどこまで考慮するのか?といった人材マネジメント施策の大まかな方針を明らかにする。

ここまでをグローバル事業を前提に考えることができる人事部に、本社人事部は変身したい。

 

(2) の「組織体制の定義」とは、(1)の「人事戦略の定義」で示した姿になるために最も適した組織のあり方を定義することである。

組織体制には会議体やプロジェクトも含まれる。ここはのちに詳しく説明したいが、日本企業の組織体制は、そのままではグローバルに適用しづらく、グローバルにコラボレーション(恊働)するのに適さない場合が多い。

そのため、多くの場合、組織を考える前提としてバリューチェーン(価値を生み出すための機能分類)から考え直すということを行なう。バリューチェーンの機能別に世界中にある組織を定義しなおせば、わかりやすく責任分担も明確なグローバル組織体制に近づくことができる。

 

(3) の「人事業務プロセスの設計」では、人事評価制度や報酬制度など、人材マネジメントに必要なプロセスについて、グローバルを意識してつくりなおす。

多くの日本企業の場合、人事評価制度は職能資格制度に代表されるように、良い意味でも悪い意味でも「曖昧な」仕組みで柔軟に運用されている場合が多いため、国境を超えた組織や本社から離れたグループ会社にとっては理解しづらく運用に耐えない。

そこで、グローバル共通の人事制度を新たにつくる。その際は、シニアマネージャークラス以上など、対象者を限定して適用する制度をつくることが多い。

 

(4) 「ITの活用」では、(3)の「人事業務プロセスの設計」で実現しようとする人事業務プロセスを最も効果的に運営するためのITシステムを企画・導入することである。

地理的・時差的な格差のあるグローバル人材マネジメントにおいては、ITの活用が必須である。ITがあるからこそ、実現できる人事業務プロセスというものもある。そのため、(3)と(4)は同時並行的に検討される。

また、経営方針や事業計画をグローバルに迅速に知らしめたり、世界共通の教育プログラムを展開したりする際には、地理的・時差的な格差を超えるeラーニングの活用が有効である。

 

(5) 「コミュニケーション施策の実行」では、部門間・拠点間のコミュニケーションを活性化させる。

特に、国境や国籍を超えたコミュニケーションを活性化することで、グローバル人材マネジメント力を強化する。その際に、単にコミュニケーション活性化を目的とするのではなく、コラボレーション(協力関係)を構築することを最終目的として、プロジェクトをスタートさせる。

そのため、コミュニケーション施策は、共通言語としての用語の統一、社内文書の英語化(英語公用語化)など、単に交流を図るというだけでなく、具体的な取り組みとして一つひとつ、コラボレーションをやりやすくするための仕組みや仕掛けを用意していくプロジェクトとして実行される。

 

(6) 「トレーニング施策の実行」では、グローバルで展開できる教育プログラムを推進する。

また、多くの日本企業では、日本人のグローバル対応力強化のためのリーダーシップトレーニングなどを実施している。日本企業は多くの教育プログラムや強いOJTの慣習が残っているのだが、それらを海外企業で展開できていない。

その原因は言語の問題もあるが、トレーナーが少ないこともあげられる。そのため、トレーニング施策を実行する際は、プログラムの企画・実行を考えるだけでなく、トレーナーの計画的な養成についても考えなくてはならない。

 

以上、6つに「その他」の施策を加えた7つの要素で自社のグローバル人材マネジメントの戦略とロードマップをつくり、具体的な計画を策定することから、企業のグローバル対応力強化はスタートさせる。

 

 

2.戦略とロードマップをつくりながらも対処療法も同時実施

戦略とロードマップをつくることは重要である。これができ、トップマネジメントの合意を得られれば、グローバル人材マネジメント実現に向けたステップはスタートする。しかし、多くの企業の場合、戦略とロードマップを計画通り実施することだけに注目していられないのが現状である。いま、日本企業の人事部には、グローバル対応に関する目先の課題が山積である。そこで、この戦略とロードマップで定義したこと以外にも、目先の課題を解決する「対処療法」を同時並行で進めなければならない。

この「対処療法」と「グローバル人材マネジメントの戦略とロードマップ」は分けて考えた方が良い。対処療法はすぐに実施しつつも、戦略とロードマップはプロジェクトマネジメントの手法を用いながら、しっかり着実に実施していく、そのような対応が求められる。

人事部員は対処療法が得意である。一方で、計画とロードマップを着実に実行するというプロジェクトマネジメントが苦手である。そのため、人事部員は、プロジェクトマネジメントの手法をしっかりと学び、他部門のキーパーソンを巻き込んだプロジェクトを発足させ、戦略とロードマップを確実に実行できるようにならなければならない。

日常業務である「対処療法」とプロジェクトである「戦略とロードマップの実行」を分けて考えることが重要である。

【図表】日常業務での対処療法とプロジェクトとしての戦略ロードマップ

さて、それではこれから「戦略とロードマップ」の6つの領域について、それぞれ具体的にどのような論点があるのかを一つずつあげながら解説していきたい。

 (次回へつづく)


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