戦略とロードマップの実行 -6- グローバル人事に必要なトレーニングには何があるのか

(1)グローバル人材育成

日本企業が「グローバル人材育成が課題」と言った場合、その多くは、日本人社員のグローバル対応力強化という文脈で使われる。そこで、ここでは、日本人社員のグローバル対応力強化に関して述べたい。

「グローバル人材育成が課題」と言っている人材育成担当者がいる場合に、筆者はいつも、御社が育てたい「グローバル人材」とは誰ですか?どういう人ですか?という投げかけをする。

しかし、多くの場合、明確な答えがかえってこない。そもそも、グローバル人材育成の目的は何なのか、人材育成担当者もわかっていないのである。

ある会社では、グローバル人材を10年後に100人にするという定量目標だけが示されていて、人材育成担当としては、まずは1年に10人ずつ研修をするという方針を出しているだけであった。このような場合、まずは、自社にとって「グローバル人材」とは何なのかを見つけることから、トレーニングを開始している。

私がこのような会社でいつも実施しているプログラムは、「6ヶ月グローバル人材育成プログラム」と呼ばれ、選抜された20名〜30名の社員を6ヶ月間でグローバル対応力のある人材に変えていくプログラムである。

このプログラムの最初の1ヶ月目の研修では、自社のグローバル課題を明らかにすることと、そのために必要な人材はどのような人材かを明らかにするワークを実施する。そして、同時に、これらワークをやっている受講者のアセスメントを実施する。

こうすることで、自社が目指す方向と人材像が明らかになると共に、その明らかになった方向と人材像に対して、いまの受講者のどこが足りないのかがわかる。そして、この足りない部分を補うための残り5ヶ月間の計画をたてて、このギャップを埋めていくというプログラムを実施している。

このプログラムを実施していて気づいたことは、「グローバル人材育成」というのは、自社がグローバルに業績をあげようと考えたときに、足りないスキルを補うという当たり前のことを実施するということだということだ。

ここで言う「足りないスキル」というのは、自社ビジネスの本当の理解であったり、会議で昼まず自社の商品の良さをPRできる力であったり、国境や国籍が違っても自信を持って会社説明ができるスキルであったりと、ごくごく当たり前で、かつ実践的なスキルのことである。

多くの会社が異文化理解や英語力強化など、何か特別なことをやらなければならないと思っているようだが、グローバル人材育成というのは特別な知識やスキルを新たに身につけるということではない。

国内でも通用する重要なビジネスパーソンとしてのスキルを、更に強化するだけであることに多くの企業が気づくのである。思い出してみれば、過去の日本企業は、国境を超えて様々な地域の様々な人種の人たちと対等にやりあいながら、グローバルにマーケットを拡大してきた。しかし、ここ最近はその迫力が弱まっている。

その原因は、異文化理解力や英語力ではないことは明らかだ。明らかに、ビジネスパーソンとしての自社製品にかける思いや、理念・信念、情熱といった基本的なところが欠けているということが多い。

この6ヶ月グローバル人材育成プログラムでは、主にこのような部分を強化する。結果として、このプログラムを受けた人材は、自分の力で(研修を受けるのではなく)英語を勉強するし、異文化のカベも自分の力で切り開いていこうとする。いま、必要なグローバル人材育成のテーマは、自社ビジネスの真の理解とマーケット拡大に対する強い意志をいかにもたせるかという点に尽きると言っても過言ではない。

【図表】6ヶ月グローバル人材育成プログラム(海外視察付プログラムの例)

【図表】6ヶ月グローバル人材育成プログラム(海外視察付プログラムの例)

 
(2)内定者海外研修のすすめ

しかし、長年、日本のドメスティックマーケットでやってきた社員に、グローバルにマーケットを拡大していく意識を急に持たせるのは、簡単なことではない。英語ができないとか、海外経験がないとか、言い訳をする要素があまりにも多くありすぎて、なかなか意識が変わらないのだ。また、海外赴任者ニーズはこれからもどんどん増えていくのに、若手社員に海外赴任したくないという社員が多いという声もよく聞く。

グローバル人材を増やすための特効薬としては、そもそも最初からグローバルマインドを持った社員を入社させることである。学生時代からバックパッカーで海外を飛び回り、海外に行けと言われれば喜んで受け入れる。そんな社員を採用したいと考える企業も多いだろう。ところが、なかなかそういう社員は国内の大企業に就職してくれなくなってきている。

そこで、おすすめしたいのが「内定者海外研修」である。内定者時代に海外に行くメリットは大きい。まず第一に、長い期間の訪問ができる。社会人になってからではせいぜい1週間程度の休みしかとれないため、海外で多様な経験をする機会は失われる。そして、第二に、自分を相対化してみることができる。

社会人になる直前に、自分自身を他国の人々と比べて、相対化した自分の姿を認識できる。さらに、内定者海外研修は通常インターンシップも伴う企画がされているため、就職前に就業体験をすることができ、基本的なビジネスマナーや社会人としての心構えを身につけることができる。

最近では、内定者海外研修のプログラムをいくつかの会社や旅行会社が提供しているので、内定者に紹介されたい。

 

(3)現地法人の教育

現地法人の教育は一般的にあまり行なわれていない。しかし、グローバル人材マネジメントを実現したい企業であれば、現地法人における教育を充実させることは課題になるだろう。

この場合、日本法人で実施している教育をアレンジしながらも、現地法人が現地法人として自ら実施できる(内製化)ように、本社人事の担当者はコーディネートしてあげると良い。現地トレーナーを養成するトレーナー養成プログラムを企画して、世界中の教育を充実させる取り組みを企画したい。

 

(4)海外赴任者の教育

海外赴任者教育は、従来の赴任前教育だけでなく、赴任中のフォロー教育、赴任後の帰任者教育も含め、計画的に一人ひとりの赴任者のサポートを充実させる。海外赴任前の教育では、特にリーダーシップトレーニングを充実させたい。多くの場合、赴任先での役職は、日本国内での役職よりも権限・責任が重くなる。

リーダーシップ経験が薄い赴任者には、事前にトレーニングを実施するとともに、赴任中のフォロー教育によってリーダーシップ能力を強化したり、リーダーシップ発揮上の悩みを聞いてあげる取り組みが必要である。特に、自社の経営理念や会社の方針を代表して話す立場になる赴任者には、事前教育では、経営者と同じスキルとマインドが必要なことを徹底して教えることが重要である。

 

(5)英語力強化

最近は、英語公用語化を宣言する有名企業もでてきたりと、企業における英語力強化の話題は増えてきている。英会話教室や通信教育などを充実させる企業も多い。しかし、英語力は勉強してもすぐには上達しない。

そこで、上達を待ってから英語を使うという発想を捨て、英語を使わざるを得ない環境をつくって、英語を上達させるという逆転の発想を持った取り組みを推奨する。例えば、階層別研修、毎回の全体会議などで、英語がどうしても必要なセッションを一部に取り入れる。

人間は必要に迫られなければ勉強はしない。逆に言えば、必要に迫られれば大学を卒業するぐらいの英語力があれば、話せるようになるのだ。足りないのは勉強する教材や教室の数ではない。勉強しなければならないと思う場面が足りないのである。英語を使う場面を増やせば必然的に皆は勉強を始める。そのため、必要に迫られる環境をたくさん社内につくることの方が英語力強化には有効であろう。そういう意味では、楽天やユニクロが英語公用語化を宣言し、無理やり英語を使う環境をつくったのは、正解とも言える。

 

最後に ~グローバルと言わない組織人事を実現する~

筆者は、グローバル人材マネジメントという言葉に本当は違和感を覚えている。グローバル人事もグローバル人材育成も全て「グローバル」という言葉がついたマネジメント施策からグローバルという言葉を取りのぞきたいと思っている。

例えば、米国で開催されているASTD(人材開発に関する国際会議)や、SHRM(戦略的人材マネジメントの世界協会)の大会にいくと、「グローバル人材マネジメント」「グローバル人事」「グローバル人材育成」といった言葉は登場しない。

グローバル人事部と普通の人事部が併設されている企業も多いが、これは通常の人事部の仕事はグローバルではないということを示している。しかし、真の意味でグローバル人材マネジメントが実現すると、普通の人事部の仕事がグローバルを対象としたものになるのだから、グローバル人事部というのはなくなる。グローバルが当たり前の会社になったとしたら、グローバル人材マネジメントは単に「人材マネジメント」と呼ばれるようになる。

グローバルか、グローバルじゃないかという議論が成り立たない、そもそも最初からグローバルを意識している日本企業が増えてくることを願っている。

(了)


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