グローバル化によって生まれたノマド礼賛

チェンナイ近辺の海辺

こんにちは、開国アンバサダーの野村です。

 

今回のコラムでは、グローバル化が進むと若手の雇用や会社組織がどう変わるか、ということと、最近はやりのノマドとの関係について、私のおもうところを書きます。

 ※写真は、かつてイギリス東インド会社が要塞を築いた、インド・チェンナイの海岸。時をへだてて、イギリスから独立したアメリカの職をインドが奪う。

私は、ノマドという生き方は否定しません。一つの立派な有り様です。ただ、誰にでも勧められるものではないです。むしろ、非常に限られた能力の高い人向けの生き方です。

 

最近のノマド礼賛の風潮への疑問を、グローバル化の視点から解きほぐしていきます。

 

■  グローバル化がもたらす人材の流動化

世の中、グローバル化だ!とよく言われていますね。開国アンバサダーのコラムを読んでいるあなたは、グローバル化に興味を持っているのでは、と思っています。

 

じゃあ、グローバル化って、なんなのでしょうか。

 

国境を越えて、様々な経験をし自分を高めていく、英語をつかって多国籍の人と仕事をする、グローバルなビジネスを展開する会社の幹部として活躍する、うーん、カッコいい!

 

このような、カッコいい側面をみて、グローバル化社会を闊歩したい。こういう憧れを持つことは、いいことだし、ぜひ、夢に向かって歩んでいきましょう。

 

一方で、グローバル化がもたらす暗部というか、別の側面もあることを忘れてはいけません。

 

世の中がグローバル化するということは、すなわち、日本国外の労働力との価格競争に巻き込まれ、安価な国外の労働力で対応できる仕事(簡単にいうと単純労働)は、人口が多く労働力単価の安い国や地域に、日本など先進国から移動してしまうという冷酷な事実です。

 

■ Six digits

具体的な例があったほうがわかりやすいでしょう。たとえば、土地勘がある、というか、私がよく知っているIT業界における話。

 

アメリカのシリコンバレーにおけるエンジニアの平均的な稼ぎは、six digits – つまり年収100,000 USドル、と言われています。現時点の異常ともいえる円高を差し引いて考えると、いわゆる「年収1,000万円」というのが世間相場のようです。

 

もちろん、その倍以上もらっている人もいれば、もっと少ない人もいます。ケースバイケースですが、世間相場がsix digitsなわけです。

 

エンジニアの相場が年収1,000万円か、すごいな、うらやましいな、と思うのは、早計です。

 

■ Six digitsのからくり

six digitsが維持できる理由というかカラクリは簡単。「安価な単純労働はオフショア(主にインド)でやっているから」というのが、私の周辺のアメリカIT業界の通説です。

 

見方を変えると、エンジニアリング(コンピュータープログラムの設計・開発・テスト)作業のうち、単純労働に分類されるような作業は、ほぼ、すべて、インドに流れてしまいます。その分、アメリカ国内での雇用は失われているわけです。

 

エンジニアのなかでも優秀な人材があつまるシリコンバレーだからこそ、six digitsが平均となりえるわけですが、アメリカ全土でみれば、相当なボリュームのエンジニアの雇用がインドに流出しているのです。

 

日本においては、平均的なエンジニア年収の世間相場が1,000万円にならないのですが、別の視点からみると、単純労働に近い作業が日本に残っているために、平均年収は低くなるけど日本人エンジニアの雇用ボリュームを支えられているともいえます。

 

グローバル化とは、こういう側面も持っているわけです。

 

■  ノマドというスタイル

一方、最近話題となっていることばで、「ノマド」という言葉があります。みなさんご存知のように、語源としては、「ノマド」とは英語で遊牧民の意味で、場所を選ばず仕事をする人のことを指します。

 

場所を選ばず働くという意味では、サラリーマンでも自営業でも働く場所に拘束されない人を「ノマド」と呼ぶべきなのでしょうが、最近の風潮としては、組織からもフリーという意味で、「ノマド」=「場所を選ばず働くフリーランス・個人事業主」という解釈が通例のようです。

 

ですので、このコラムでは、「ノマド」の意味を上記の解釈として、「ノマド(個人事業主)」という表記にします。

 

■  ノマド(個人事業主)はカッコいい?

ここのところ、ノマド(個人事業主)は、満員電車に乗らなくてよいし、好きなところで好きな仕事をして、自由を謳歌し、自分らしい生き方ができる、という趣旨の話を、よく聞きます。

 

また、ノマド(個人事業主)の成功のためには、SNSを駆使してネットワークをつくり、セルフブランディングをすることで、営業せずとも仕事が舞い込んでくる、というやり方が流行のようです。ノマド(個人事業主)のセルフブランディングのためのセミナーで、何万円、何十万円、という高額なセミナーに参加する人も少なからずいるようです。

 

満員電車に乗り、職場に縛られ、嫌な仕事をして、自由のないサラリーマンに比べると、ノマド(個人事業主)の生活は夢のような生活だ!といえるのかもしれません。

 

ただ、そんなにうまくいくのでしょうか。

 

■  就職困難な時代におけるノマド(個人事業主)の位置づけ

これは、私の経験と勘に基づく推測なのですが、ノマド(個人事業主)がもてはやされる理由の一つは、若者の就職難にあると思います。

 

たしかに、最近の若者の就職は非常に厳しい状況といえます。正社員の門戸は狭くなり、非正規雇用が多くなっています。アルバイトなどの非正規雇用では、職務経験が限定的となり、職能を身につけることが困難なことが多いです。

 

非正規雇用を2-3年継続してしまうと、正社員として雇用されることが、さらに困難となるのが通例です。なぜならば、毎年、正社員の枠は限られており、第二新卒枠で正社員となることは、職能が低いと狭き門とならざるを得ないので。。。

 

こんな状況が続くならば、いっそのことノマド(個人事業主)だ!ノマド(個人事業主)の成功のためには、SNSだ!セルフブランディングだ!セミナーに参加して人脈ひろげよう!となるのではないでしょうか。

 

■  就職困難な時代の根本原因は会社の構造変化

一方で、就職困難な時代となってしまった根本原因は何なのでしょうか。

 

ひとつには、硬直的な現状の日本の労働法規では、正社員を指名解雇できないなどの理由で、中高年の雇用が維持され、若年層に雇用のチャンスが与えられないということがあります。この点については、ここでは多くは語りません。今回のコラムとあまり関係がないので。

 

もう一つの理由は、上記のように、グローバル化が進んで、単純労働・定型業務が日本から流出していることをわすれてはいけません。現在でも、確実に、企業の定型業務のアウトソーシングはすすんでおり、アウトソーシング先として、海外の業者が選定されているのです。

 

かつてであれば、日本企業で新卒社員が担当していたような、比較的単純な作業・定型業務が海外に流出し、若手の採用枠が限られる。さらに、会社における業務のアウトソーシングが進展すると、どんな職種の企業であっても、正社員の絶対数は減る一方である、といえます。

 

このグローバル化に伴う企業構造の変化の潮流は、加速することはあれど、止まったり逆流(元に戻る)したりすることはないでしょう。

 

■  ノマド(個人事業主)に、本当になれるの?

このような現状を正しく把握したうえで、ノマド(個人事業主)を考え見ましょう。

 

私なりの結論を先に申し上げると、就職できないから、今の会社を辞めたいけど正社員で転職できないから、ノマド(個人事業主)になる、なんていうのは、無理だし、続かないと思います。

 

なぜか。理由は以下です。

 

そもそも、ノマド(個人事業主)は、過去に実績があって、認められた人であれば、仕事にありつけるし、仕事で結果を出すことができます。仕事で結果を出せば、紹介で仕事をもらい続けることができるでしょう。SNSを使ってセルフブランディングすれば、仕事の間口が広がって自分の仕事を営業しなくて済み、好循環に入る可能性があります。

 

同時に、仕事で結果が出せなかったら悪評が立ちます。どんな業界でも、悪いウワサが広がるのは早いものです。特に、以前に仕事をしていた人には、すぐに悪いウワサが伝わって仕事をもらえなくなる可能性が高いです。

 

また、個人の能力に依存しているので、時代の流れに取り残されてしまうと、使ってもらえなくなります。若手のノマド(個人事業主)のほうが、新しいことを知っているなら、一般的に若手のほうが単価(時給や月額の契約金額)は安いですから。

 

つまり、ノマド(個人事業主)は、高い能力があって過去に実績のある人であれば、やっていける可能性があるが、常に自己研鑽が必要な非常に競争の激しい世界ということです。

 

そんな世界に、新卒で就職試験に何社も落ちてどこも行く先のない人や、今の会社で何も結果を出していない人が参入したら。。。

 

どうなるかは自明でしょう。

 

SNSを使おうが、セルフブランディングしようが、セミナーに参加して人脈つくろうが、自分自身に能力や実績のない人は、誰にも使ってもらえません。

 

ノマド(個人事業主)を雇う側から考えてみてください。能力・実績ないけどSNSを上手に使ってセルフブランディングしている人を雇いますか?私だったら、無給でも雇いません。地価の高い東京で、能力や実績のない人に席を与えるだけコストの無駄です。本当に。

 

■  ノマド(個人事業主)流行の不気味さ

私なりにまとめると、場所を選ばず好きな仕事をするという、憧れの職種のように、ノマド(個人事業主)を礼賛するのは構いません。一方で、ノマド(個人事業主)は非常に競争が激しい世界であることを理解している人がすくないのでは、と思ってしまいます。

 

グローバル化の結果として、若者の就職難が続くのは、もう、止められません。また、アウトソーシング化がすすめば、正社員は減る一方です。

 

だからといって、若者の就職難や、会社が面白くないけど正社員で転職できない人への処方箋として、ノマド(個人事業主)を勧めるのは、間違っていると思います。

 

グローバル化が若手の雇用と正社員の継続雇用に悪影響していることを正しく理解し、ノマド(個人事業主)の厳しい現実を把握したうえで、それでも、ノマド(個人事業主)になりたい、という決意を持った人だけ、目指すべきです。

 

何社も就職試験うけて内定が出ない、嫌な会社を辞めたいけど正社員として理想の会社に転職できない。だから、ノマド(個人事業主)だ!というのは、グローバル化という目の前の現実からの短絡的な現実逃避なのでは、と、私の視点からは思ってしまうわけです。

 


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