あきらめないための合言葉「ジュガール」
はじめまして!このたびインドから寄稿させていただくことになりました、三浦恭子です。
現在、私はインド西海岸の大都市ムンバイで暮らしています。
インド随一の金融街および年間およそ1,000本の新作を生み出すといわれるインド映画界「ボリウッド」のホームベースとしてその華やかな側面が知られる都市ですが、一方で1千2百万人以上にのぼる人口 (日本では2千万人超と報道されることが多いようですが、後者は郊外人口を含んでいます)のうち半数以上がスラム在住の貧困層とされており、貧困をめぐる数々の社会問題を抱える街でもあります。
2008年にアカデミー最優秀作品賞を受賞した映画「スラムドッグ・ミリオネア」で後者の側面を垣間見た方も多いかもしれません。ここで私は、低所得層の医療アクセス改善を目的とする事業に取り組んでいます。
国全体で12億を超える人口を持つインドでは、中央政府・地方自治体が国民の生活を支える十分なハード・ソフトのインフラストラクチャーを提供するに至っていません。
そこで、道路事業、職業訓練、先進医療など営利事業として成り立つインフラ領域では民間の営利企業が重要な役割を担い、一方で低所得層を対象とする、収益の見込みが比較的低いインフラ領域(主に社会的なソフトのインフラが該当)では非営利団体(NGO)が主体となってサービスを提供するという構造があります。
「非営利団体」というと、日本などいわゆる先進国においては「のんびりしている」「ゆるい管理体制」といったイメージが付きまといがちですが、上記の背景から、インドにおいては非営利セクターが営利企業と同じ「民間」のくくりで議論されることも多く、低所得層のニーズに応えるために高いプレッシャーのもと、寸暇を惜しんで事業に取り組む非営利団体が数多く存在します。
今回は、インドの非営利セクターを背景に、インドの「ジュガール」というコンセプトについて触れてみたいと思います。
インド発祥の「ジュガール」という言葉は、日本では「イノベーション」と訳されることがあるようです。ところが実はこの言葉、「ハイブリッドカー」や「ナノテクノロジー」といった技術的・商業的なコンテクストでの「イノベーション」とは意味が少し異なります。
この単語の起源を調べてみると、インドの農村部で廃物を寄せ集め、灌漑用のポンプ等を原動力にして実用化された自家製自動車が「ジュガール」と呼ばれることに行きつくようです。
そこから派生して、特にリソースの限られた環境で、何らかの目的を達成するために知恵と工夫を重ねて生まれたアイディアや完成品が広く「ジュガール」と呼ばれています。この意味では、「ジュガール」というコンセプトはインド発祥であっても、ジュガール自体は世界各地に溢れていると思います。
ムンバイのあるNGOでは、週1度の会議でスタッフそれぞれが考えついたジュガールについて報告しあうプロセスを取り入れました。
この会議に同席してみると、中には「GPSを利用したプロジェクト管理」のようないかにも「イノベーション」という訳語がふさわしいジュガールも見受けられるものの、報告されるジュガールの多くは「サービス提供にあたり行政から許可が下りないときの対処法」、「パートナー機関の担当者が協力してくれないときのデータ収集法」など、いわば行き詰ったプロセスを打破するテクニックです。このように、自家製自動車のような物理的な完成品だけでなく、プロセス面でのブレイクスルーも含むのが「ジュガール」の特徴だと思います。
ローリソースの環境から生まれるイノベーション=ジュガールは、比較的資金に恵まれた営利セクターよりも資金の限られる非営利セクターにおいてこそ数多く生み出されているのではないかと感じるほど、インドの非営利セクターはクリエイティビティに満ちています。
決して十分とはいえないお給料で厳しいスラムの現状に日々立ち向かい、目的を達成するためなら大きな障害があっても諦めずに様々な解決策を試し続けるNGO職員さんたちの姿勢からは、エネルギーと希望をもらってばかりです。
今後も引き続き、リアルなムンバイ事情と、そこからの学び・気づきをお伝えできればと思います。
(写真はスラムの一角を写したもの)
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