ビジネスレベルの外国語習得に必要なきっかけ(前編)
昨年、「English Vinglish」(*1)というボリウッド映画が公開されました。教養があって料理も得意、しかも家事の合間を縫って自宅をベースに小規模ビジネスを手がける思いっきり美人の2児の母、という設定の主人公を、15年ほど休業していた大女優・シュリデヴィがカムバックして演じ話題を呼びました。(余談ですが最近ではこの主人公のような女性を「マムプレナー」と呼ぶそうですね。)
この傍目には非の打ち所のない美人ママは、ある大きなコンプレックスを抱えています。それはズバリ、英語が話せないこと。映画では、主人公が海外に住む姪の結婚式の手伝いを頼まれたことをきっかけに、このコンプレックスを少しずつ克服していく様子が描かれます。
美人で賢い素敵なママなのに、「英語がわからない」という理由ひとつで「恥ずかしいから三者面談に来ないで!」と自分の娘に邪険に扱われてしまう主人公。少々設定に無理があるのではないかと感じ、農村部出身で全寮制の高校とムンバイの大学を出て経済的に独立した同年代の友人(女性)に聞いてみると、「いくら料理ができて家計に貢献している美人でも、英語が出来ないというだけの理由で家族にバカにされてしまうケースは残念ながら実際によくあるのよ」とのこと。「英語コンプレックス」を抱える人の悩みの深さを窺わせます。
旧イギリス領で英語を公用語のひとつとするインドですが、実は英語を使える人は富裕層を除き、決して多くはありません。第2外国語として英語を使えるインド人口の割合を示す数値は、調査によって異なるもの大体1~10%とされています。私の感覚としても、英語を話す人口は1割かそれ以下だろうと感じています(*2)。
インドでは全体人口が多いだけに英語話者の絶対数も大きいのですが、割合でいうと、英語話者に出会う確率よりも、英語で分かりあえない相手に出会う確率のほうが格段に高いのです(もっとも、人口の3割弱の人たちは英語のアルファベットを読むことはできるといわれていますし、多くの人はごく基本的な英単語であれば知っています)。筆者もかつてアフリカ大陸南部のザンビアに出張した際、多国籍企業のオフィスがひしめくインドの大都市ムンバイにいるよりも、よりのどかな風景が広がるザンビアの首都ルサカにいたほうが英語を解する人に出会う頻度が高いことに驚きました。
インドにおける英語話者人口が比較的少ないことの裏には少々複雑な歴史があるようですが、脱線となってしまいますので、こちらでは割愛させていただこうと思います(*3)。
インドにおいて日々の商談や業務は主に第一公用語であるヒンディ語および各州の土着の言語で行われます。ですから実は、国内の現場最前線で仕事をしている限りは、ヒンディ語や州の主要言語が操れれば、英語を使う必要はほぼ皆無です。しかし、当地の若者が直面する現実問題として、「管理職の言葉」「将来出世できる人の言葉」としての英語があります。
営利企業においても、現在私が関わるNGOのような組織においても、マネジメント層のコミュニケーションは打って変わって、殆どの場合英語で行われます。これが、英語を話せない人にとって長期的な障害となるのです。将来的に現場の仕事からステップアップし中間管理職以上の立場で活躍するためには、マネジメント層の人たちと英語で議論をしたり、英語で報告書をまとめたりする能力を持つことが最低限の必要条件となります。こういった事情を踏まえ、数多くの家庭が経済的に無理をしてでも、子どもたちを English Tuitionと呼ばれる私設英語教室に通わせています。
今現在私が取り組む仕事は英語教育とはまったく関係ないのですが、上記の背景から、普段の仕事に追加して「若手スタッフに対し出来る限り英語で話してほしい」「英語で報告書を書くトレーニングを実施してほしい」といったリクエストを若手スタッフ本人やその上司たちからかなり頻繁に受けています。
これまで、実際にいくつかのトレーニングやライティング・ワークショップを実験的に実施してみました。その中で気が付いたのは、第二外国語としての英語を上達させるために必要だったのは言語自体の訓練ではなく、ほんの小さなきっかけやちょっとした背中の一押しだった、というケースが意外に多いという事実です。
次回、続けてご紹介いたします。
(注釈)
*1 ヒンディ語では実在する単語の頭をVに置き換える言葉遊びのような言い回しがよく使われ、「Vinglish」もその例だと思われます。ですから「Vinglish」自体に特定の意味はありません。日本語の「なかよしこよし」の「こよし」に若干似ているかもしれません。
*2 BBC関連記事:“English or Hinglish – which will India choose?” http://www.bbc.co.uk/news/magazine-20500312
*3 インドの言語事情とその背景については、インフォシス社を創設したナンダン・ニレカニ氏の“Imagining India: Ideas for the New Century”という書籍に比較的平易な英語で読みやすくまとめられています。
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