剣道とは自分との勝負。果敢に挑戦する姿が見られたヨーロッパ選手権。

EKC no3 040

4月12-14日まで、ヨーロッパ選手権がドイツ・ベルリンで開催されました。錬磨道場からも参加者があったので、応援も兼ねて観戦に訪れました。

 

 

 

1.多くの参加者。しかし、資金面の問題もつきまとう

 

 

この大会は、3年に一度行われる世界選手権の年を除いて毎年開催されているようですが、25回目を迎える今大会には、30か国・約300名の選手が参加しました。ヨーロッパ以外の地域でも、他の国の推薦があればヨーロッパ剣道連盟に加盟できるようで、南アフリカやモザンビークからの参加もありました。

 

参加国

オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、グルジア、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、マルタ、モンテネグロ、モザンビーク、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、イギリス

 

このように、多くの国の参加により盛大に開催されたヨーロッパ選手権でしたが、金銭的な理由から不参加の国もあったようです。やはり、まだまだマイナー競技である剣道には、資金面での困難がつきまとうようです。

 

ヨーロッパ選手権を観戦するのは初めてでしたが、「レベルは高い」と感じました。多くのチームに日本人指導者の姿が見られましたが、中には日本のトップ選手の方もいらっしゃいました。全日本剣道連盟からの派遣という形で来られていていたようですが、このような各国の取り組みがヨーロッパのレベルを引き上げているのだと思います。

 

 

 

2、日本とは異なる大会の雰囲気。それでも根付く、剣道の精神

 

 

大会の雰囲気は、日本とだいぶ異なっていました。剣道の試合の応援は、基本的には拍手のみで、声援は禁止されています。学生の試合なんかでは、試合が競ってくると歓声が上がることもありますが、そのようなときは大会本部の方からアナウンスによる注意が入ります。

 

ところが、この大会ではそんなことは一切お構いなしで、試合中にも大きな声援や指笛が起こり、国旗を振っている人も見られました。また、試合が膠着してくると「勝負にいけ!」なんて声も飛び交っていました。

 

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しかし、このような中にも日本人のような振る舞いをされている選手もいました。地元・ドイツの選手が、前回王者のハンガリー選手に肉薄する試合を演じました。結局、延長戦の末に敗れてしまいましたが、観客席からは健闘を称える大きな歓声や拍手が沸き起こりました。そのような中、このドイツ選手は観客席に対して一礼をして会場を後にしました。謙虚さを保つ姿に日本人が美徳とするものが伝わっていることを感じ、なんだかうれしい気持ちになったと同時に、指導の際には試合の技術だけでなく、このような所作等についてもきちんと伝えていかなければならないのだと、改めて気を引き締めました。

 

 

 

3、多様な剣風。それぞれの特徴を活かして勝負に臨む

 

 

試合の内容については、レベルの高い試合が展開されていたと思います。特に印象的だったのが、様々な剣風(剣道のスタイル)を見ることができたこと。ガタイのいい人はパワーで、小さい人はスピードで、テクニックがあまりない人は自分の有利な展開に持っていって、勝負していました。それぞれが、それぞれの強いところで勝負しようとしていたことが、見ていて面白いと感じる要因だったように思います。

 

これには、自分で考えるという習慣も影響していると思います。基本的な動作を身につけたら、自分にはどのような剣風が合っているのか、それを考えながら稽古しているのではないかと思います。だから、自分の強みを理解することができ、その強みを活かして勝負することができるのではないかと思いました。

 

決勝戦を前に緊張の面持ちのフランスチーム

 

 

 

4、ジュニアに見られた日本との大きな差。しかし、日本式は正しいのか?

 

 

大会は男子個人・団体、女子個人・団体に加えて、ジュニアの部の試合も行われました。日本で言うと、ちょうど高校生にあたる年代の選手達の試合です。私の見た限り、日本選手との差はシニアに比べてジュニアの選手の方が大きかったのではないかと思います。

 

これには稽古量が関係していると思われます。観戦中に知り合ったフランス在住の方の話によると、学校の部活動はなく、道場での稽古になるそうです。そして、稽古はレベル別に行われているため、毎日稽古するような環境ではないようです。一方で日本の高校生は、それこそ私立の強豪校になれば年間の休みは数えるほど、というケースも珍しくはありません。これが差を生む要因となっているのではないかと思います。

 

しかし日本で多く見られるのは、稽古のやり過ぎによって剣道に対する意欲を失い、剣道から離れてしまうケースです。いわゆるバーンアウト。このあたりは、稽古量の少ない方が起こりにくいように思います。ただでさえ、日本人は自分の気持ちより指導者の指示を優先する傾向にあります。言い換えれば、自分をコントロールすることが下手だということ。自分の感情を無視して頑張った結果、剣道を嫌いになってしまうのは、あまりに寂しいような気がします。自分の身を守るためにも、ヨーロッパの人のように、あれこれ言い訳を考える術を身につけるのも一つの手かもしれません。

 

 

 

5、結果よりも挑戦する姿勢を評価。そこにこそ、剣道の醍醐味があるのでは?

 

 

大会を見ていて一番印象に残ったのが、大会全体が楽しそうな雰囲気に包まれていることでした。これは何もふざけながらやっているということではなく、真剣勝負の中にも、それを楽しもうとする姿勢があったということです。選手は剣道をすることを、挑戦することを楽しんでいるような気がしました。

「結果は伴わなかったけど、自分のやろうとしていたことがいくつかできた。だから、今はすごくうれしい」

錬磨道場からは2名出場しましたが、そのうちの一人がこう言っていました。このような考え方は、とても大切なような気がします。

 

剣道の試合では、試合者が打ち合うのを審判が一本(剣道では有効打突といいます)かどうかを見極めます。時には自分は一本だと思っても、審判が認めないというようなケースもあります。そういう面を見たら、剣道は採点競技の面も持ち合わせているのかもしれません。しかも、この一本の基準は非常にあいまいで、審判の主観に依存しています。

 

結果は審判が決めるもの。でも、自分がやろうとしていたことができたかどうかを一番よく評価できるのは、自分だと思います。周囲の人は、試合者の心理にまでは踏み込めません。だからこそ、自分で自分を評価することが必要なのではないかと思います。

 

ヨーロッパの選手は、この部分を大切にしているのではないかと思います。例え試合に勝ったとしても、自分がイメージするような剣道ができなければ意味がない。むしろ、結果より内容を重要視しているようにさえ感じます。それはつまり、自分との勝負に勝たなければならないということです。対人競技である剣道では、相手の動きをすべてコントロールできるわけではありません。そのような、何が起こるかわからないような状況の中でも、自分が稽古してきたことを披露することができるかどうか。これを大切にしているのではないかと思います。そして、それを実践しようと「果敢に挑戦する姿」に、価値を見出しているのかもしれません。

 

互いの健闘をたたえ合う選手たち

 

 

 

日本で行われる試合を見ていて気になるのは、勝負を気にしすぎて消極的になりがちなこと。これには勝つことしか評価しないような風潮が影響していると思います。

 

もちろん、剣道を趣味として位置付けている人が多いヨーロッパと、警察のような勝負の世界に生きている人もいる日本では剣道を取り巻く環境は違うと思いますが、この大会を見て感じたのは、剣道って楽しいんだなってことです。そして、勝負以外にも大切なことがあり、試合を通してそれを学ぶことができるのだと、改めて感じました。

 

 

また一つ、日本を出てから学んだことが増えました。

 


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