カンボジア格闘技留学にやってくる世界の男たち(3)

前回に続き、世界からBOKATORに魅せられて、カンボジアに集まってきた男たちの紹介をします。(前回の記事はこちらをご参照下さい。)
前回の記事で、BOKATOR留学生が『I don’t know』しか言わないということを書きましたが、そんな彼らと同じ部屋に住んで、朝から晩までずっと一緒に生活しているので慣れてきたものの、驚いてしまったのが、帰国したらどうするのかを聞くと、全員が『 I don’t know』といったことでした。
カナダ人のDylanに聞くと、『 I don’t know』。少し突っ込んで聞いても、『分からない』、『決めていない』の一点張り。挙げ句の果てには、『カンボジアの帰りにタイのビーチに行くからそこでゆっくり決めるかな。』
『ビーチでマジックマッシュルームでも飲みながら考えるよ。』と続けてくれ、もう完全にふざけていました。
イタリア人のAndreaに聞いても、『 I don’t know』。少し突っ込んで聞くと、『何か適当に仕事を見つけて、お金が貯まればこんな感じで世界のどこかに行くと思う。』
最後には『将来ジャングルみたいなところに住みたい』とも語ってくれました。
もう最後は意味が分かりませんでした。
スウェーデン人のOliverに聞いても、もちろん『 I don’t know』。
彼は少し詳しく話してくれました。
スウェーデンの鉱山に肉体労働に行くと、2週間で5000$(1$=100円で50万円)稼げるので、多分そこで働くと。
そしてお金を貯めて、中国の拳法を習いに行きたいと。
何でもそこの拳法のマスターは、『人に2発目の攻撃をするやり方を俺は知らない』と公言しているそうです。特殊部隊にいた経験なども持ち、今までどんな相手も一発で倒したそうで、その伝説を嬉しそうにOliverは話していました。
『2週間で50万円稼げるなんていいじゃないか』と僕が言うと、
『ただその鉱山に住み込みで、朝起きて、夜まで鉱山を掘る仕事をさせられて、夜は小さな部屋で寝るだけの生活を2週間続けないといけない。しかも、鉱山なので多少の健康のリスクや命の危険もある。ただ何より仕事内容が厳し過ぎて、2週間の前にダウンして辞める人間が多い。』
『でも俺はBOKATORで身体を鍛えているので問題ないだろ。』と満面の笑み。
問題ないことを僕も祈っています。
この通り帰国後の予定もお決まりの『I don’t know.』でしたが、何よりも一番驚いたのが、自分より3ヶ月程先に来ているDylanとAndreaがブラッククロマー(日本でいう黒帯)の試験が近付いてきたときのことでした。
Andreaに『試験はいけそうか?』と聞くと、なんと『俺は試験は受けない』との答えが返ってきました。
『え?どうして?』
『特に理由はないけど。』
もう全然答えになってないので、こっちも必死になって『どうしたんだ?黒帯を取るためにイタリアから来て半年練習してたんだろ?』と聞くと、
『そんな気分じゃないんだ、ちょっとゆっくりしたくなって。』の答えです。
BOKATORは2000年続く格闘技で、一つの帯を取るために100個以上の技を覚えないといけないので、かなり難しいのも理由の一つだとは思いますが、それよりも驚いたのが、そう言っていた次の日に彼が誰よりも早く道場に行き、朝の6時半から黙々と練習をしていることでした。
彼の中では黒帯というものはあくまで第三者の基準であり、恐らく『自分が格闘技を習得したいからやってるだけで、他者が黒帯と認めなくても、そのレベルまで自分がやりたいからやってるだけだ。』これくらいの気概じゃないでしょうか。
彼らは他人の尺度でなく、全てを自分の意志で決めて、行動していました。
もちろん他人の評価のために、やりたくないこともコツコツとこなす日本人の特性は素晴らしく、だからこそここまで日本という国が成長してきたことも事実だと思います。
ただ日本の至る所であれ程に聞いていた愚痴を、ここでは聞いたことがありませんでした。
そう考えると、自分がカンボジアに来て一番自覚していることのひとつが『愚痴を言わなくなった』ということです。
もちろん言いたくなることも、不安になることもありましたが、自分の意志で考えて決断した行動なので愚痴を言う相手もいません。
愚痴を一言でも言ってしまうと、『じゃ何でここに来たの?』『誰かに言われたから?』と全てが崩れてしまう気がしたからです。
これはカンボジアに限らないと思いますが、外国に住むという選択を自分の意志でされている方に出会う中で、その生き方の中に凛とした美しさを感じることがあります。
日本人、西欧人に限らず、生き方に覚悟や責任を背負っているのを感じることが多かったです。
格闘技を習いに来たものの、この生活で格闘技以外の多くのことを学んだような気がします。
他にも印象に残っているのが、停電の多いカンボジアでは停電になると、貧しい家庭ほど一つの空間に体を寄せ集めるようにしてロウソクの炎を共有していたことです。
少し裕福になってくると家の部屋数も多いので、そんなこともなくなり、停電に左右されないほど裕福な家庭になるとそんな光景を見ることすら出来なくなります。
『お前は外野で見ているだけだからだろ?』と言われると、その通りかも知れませんが、暗くて小さい部屋でロウソクの炎に家族が体を寄せて、キャッキャと冗談を交わす姿に家族の愛が溢れているように感じました。
色々な人の支えのお陰で、歩かせてもらっている人生の寄り道。
そんな寄り道で出会う経験からこれほど色々なことを学べるとは思っていませんでした。
これをどうやって多くの人々に共有することが出来るのかということを模索中ですが、今の時点ではこのコラムが皆さんの日常の生活では気付けなかったようなことに目を向ける一つのきっかけになれば嬉しく思います。
写真は毎日通っていた食堂のおばちゃんが僕たちBOKATOR留学生と出会えた記念を残したいとカンボジアの写真館みたいなところに連れて行ってくた時のものです。
誰か一人とお別れになる度に、涙を流し、食堂の壁には僕らの写真を飾ってくれていました。
いつもご飯は大盛り、デザートのサービスは当たり前。僕たちが風邪を引いた時には、道場にお弁当まで差し入れしてくれます。
自分が小さい頃と比べても、日本でも多くの個人飲食店はなくなり、規模の経済性のもとチェーンストアが大多数を占めるようになりました。
徹底したマニュアル化とオペレーション管理による低価格ももちろんありがたいのですが、これらの写真を見ていると、世の中が便利になればなるほど人間の温かい部分に触れる機会も減っていくのかなと思わず考えさせられてしまいました。
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