騙されないための仮説・検証サイクル

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■ロスチャイルド伝説
時は1815年。エルバ島から脱出したナポレオンが再起をかけてイギリス・プロイセン軍とワーテルローで戦った。この戦争に熱い視線を向けていたのは、ロンドンのイギリス国債市場。これでイギリスが負ければその存亡は危うく、イギリス国債も紙切れ同然になるかどうかの瀬戸際だ。
そんな時にイギリスのロスチャイルド家当主、ネイサンのところに一台の馬車が到着したことが市場関係者に知れわたる。ロスチャイルド家は既に、ヨーロッパに張り巡らされたネットワーク網を持ち、その情報収集能力には定評があった。そのため、市場関係者たちは、誰よりも早くロスチャイルドに戦争の勝敗結果の情報がもたらされたと思い、その次の一手を注意深く見つめた。
ロスチャイルドは、おもむろに手持ちのイギリス国債を売り始めた。市場関係者たちは、その行動をみてイギリスが負けたものと想像し、我先に手持ちの国債を投売りし始めた。当然、国債は暴落し、紙切れ同然となった。しかし、その頃になりようやく戦争の勝敗の真相、イギリス軍の勝利というニュースが市場関係者たちにもたらされた。はっとみんなが気づいたときには、ロスチャイルドはさっさと紙切れ同然となった国債を買い占めた後だった。当然、国債は高騰し、伝説では100万ポンドという巨万の富をロスチャイルドは手にし、ロスチャイルド家の繁栄の基礎となったと言われている。(実際の利益額については諸説あり)
■簡単に情報を信じてはいけない

Yoshikawa

ここで考えてほしいのは、ネイサン・ロスチャイルドの華麗なる情報の扱い方だ。情報を先んじて知るものは、自らの利益に沿うように情報を操作する。ネイサンは自分がイギリス国債を売れば、市場が暴落するのを知っていた。逆にイギリス国債を買えば、市場は一挙に高騰することも知っていた。そして、自分だけが知っている時間がある、ということも知っていた。これを情報の非対称性と言うが、情報を先んじて知る者は、往々にしてこれを利用して他者を目くらます、或いは事実に反することをまんまと信じ込ませ、思惑通りに事を運ぼうと企む。
通常、一般の人々は情報の非対称性において、不利な立場にいる。そのため、情報の受身に立たされる身としては、報道内容を鵜呑みにしてはいけない。一度はその真偽、情報発信者の意図や背景を疑うべきなのである。

仮説・検証サイクルのススメ
では、全ての情報の真偽を疑うとき、何をベースに真偽を判断すべきか?それは、基本的に常識、バランス感覚である。例えばAがBを殴ったという報道のフォローアップで、BはAを非難したとか、殴り返したとか、という続きがあれば、それは筋が通っているので、信じていい話だろう。けれど、BはAにお金をあげたという報道が次に出てくれば、このニュースは本当か?と疑う。或いはそもそもAは本当にBを殴ったのか?と疑う。或いは、AとBは仲が悪いと世の中に思わせる。或いはAとBとの仲を悪くさせることにより、誰が得するのだろう?と疑う。また、なぜこのタイミングなのか?と疑う。
Yoshikawa そして、疑った時に、可能性のある理由をいくつか考え、自分なりの仮説を立てる。(仮説は1つとは限らないし、仮説の可能性が否定される出来事が続いて起きるまでは捨てる必要もない)そして、後でその仮説を強化してくれる出来事が発生するかもしれないし、その逆が起きることもある。
この時大事なのは、仮説を立てたら、謙虚にその仮説に反するような事実がないかチェックすること。人は仮説を立てるとその仮説を裏付けるような事実を一生懸命探し、その仮説に反することは軽視、或いは無視しがちである。それを戒めなければならないが、これは意外に難しい。
例えば、「アメリカは日本を素通りして中国と結ぼうとしている。その証拠に…」とたくさん証拠を挙げてくれるが、自説に不利な証拠に関する言及はない。証拠の多さや細かさなどから、普段からかなり勉強されていらっしゃるのだろう、と推察できる。しかし、その事実そのものはあっているかもしれないが、きっと同じ数だけ或いはそれ以上、その仮説を裏付けない事実を見つけることができるだろう。
そもそも、アメリカは日本同様、一枚岩ではないし、中国を警戒する派とビジネスチャンスと捉えて好意的に見る派とが拮抗して、その時々の内政情勢次第で警戒派が有利になったり、不利になったりする。(現在ヘッジ政策という、日中間で二股をかけているので、わかりにくいのだが)日本でも、つい2年前親中派の小沢一郎が権力を握って、北京へ600人を引き連れて行ってみせた。しかし、その後陸山会事件で求心力が低下し、親米派として有名な前原誠司を外相に迎えた菅直人が政権の座にいる。というように、日本自体親中とも反中とも簡単にいえない状況だ。両方が並存して、その時々によって親中色が強かったり、弱くなったりする。同様に、各国における文脈を一切無視して、アメリカはこう、中国はこう、と断言するのはかなり危険である。
Yoshikawa しかし、こうしたことは何も今始った話ではない。開国から日本が悩まされている問題である。例えば、戦前中国大陸における軍部の工作支援をしていた中谷武世は、1989年出版の回顧録に、上海の租界地にある黄浦公園に掲げられた「犬と中国人は入るべからず」という表札に感じた義憤を記してはいても、大陸のあちこちで展開されていたはずの反日運動は一切書いていない。きっと死ぬまで自らの信じたい仮説の中で生きていたのだろう。また、日中戦争下で大陸へ送られた兵士たちは、中国の奥地にあちこち行って、キリスト教の宣教師たちが孤児院や学校を作って中国人たちに奉仕している姿を発見した。日本のいわゆる中国専門家が説明していた中国とは全く違う実情に直面し、「西洋は中国をいじめ、日本が中国を守っていると、多くの専門家たちは言っていなかったか?専門家は一体中国の何を見ていたのだ?」という批判が噴出した。
かくも決め付けをせずに仮説―検証サイクルに徹するのは難しい。
しかし、まったく失敗の連続だったというわけでもない。日露戦争という大決断の前に、日露不戦論・満韓交換論派の伊藤博文はロシアとヨーロッパの宮廷に乗り込んで、自説である戦争回避の可能性をぎりぎりまで探った。また、大正デモクラシーの立役者の一人、吉野作造東京大学教授は五四運動に心を痛め、日本の実情を中国の学生たちは知らないのではないかという仮説を立てて、中国で自らの論文を発表し、中国側の反響から自らの仮説の正しさを検証し、さらに東京大学と北京大学との交流を模索したりもした。(政府による干渉で中断を余儀なくされたが)
世の中に情報の非対称性があり、基本的に不利な立場にいる限り、情報戦で我が身を守るのは、我と我が頭脳しかない。地道であっても、仮説―検証サイクルに徹するしかない。
<了>

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