スキルから始まるグローバル力

現在参加しているアキュメンファンドのグローバルフェロープログラムは、貧困削減・開発分野での次世代リーダー育成を目指すプログラムです。
毎年世界中から10人が選ばれて、2か月間ニューヨークで研修を受けた後、10か月間アキュメンファンドが投資しているインドやケニアのソーシャル・ベンチャーの中に入って経営を支援します。現在8か月が過ぎたところですが、これまでに出会ったテーマの中で、業界を問わず、これからの世界を生きる一人の人間として、特に重要だと思う点をご紹介したいと思います。
まずはコミュニケーション。外国語を流暢に話すこととは異なります。言葉がたどたどしくても、通じるときは通じる。さらには人と人の絆が生まれたりする。そういう体験をしたことがある方は多いのではないでしょうか。
■聴くちから
Empathy とは共感する力。Sympathy とは同情。アキュメンでは、よくEmpathyの大切さを語ります。でも、この2つの決定的な違いって何なのでしょう?Empathyとは、相手の身になって感じて(共感)つながること。そこには、何の価値判断もコントロールも、アドバイスすらもない。アドバイスをすること、それは力の上下関係を生み出すから。対して、Sympathy(同情)は、同情する側と同情される側という、上下関係を生む。
コミュニケーションは、話す前にまず聴くことから始まる。私が現在関わっているBOPビジネスの場合、事業に関わる人が多様です。お客さんも、時には従業員もBOP層で、私たちとは育った環境も価値観も違います。でも、お客さんや地元の従業員なしに、ビジネスは成り立たない。彼らこそが当事者なのです。気が向いたときに思い出したように聞くのではなく、同情から聞くのでもなく、重要な情報・視点を持っている仲間として、彼らの声に常に耳を傾けること。
Empathyは、相手が安心して話せるスペースを作るために、重要な役割を果たすのではないでしょうか。たとえ結果に反映されなかったとしても、自分の意見も検討のテーブルに乗った(乗る価値があるものとして尊重された)という過程が、信頼感や一体感を醸成し、チームのパフォーマンスを底上げするように感じます。
ではどうEmpathyを身につけるか。ニューヨークでの研修中、5ドルだけを手に街に出て1日過ごすという課題がありました。炊き出し所に行ったり、ホームレスのシェルターに行ったり、保険証も現金もないのに病院で診察を受けようとしたり。立派なオフィスビルの街並みがひどく冷たく見えました。一方で、行く先々で通りすがりの人に助けられて、今まで見えなかった大都市の中の人のつながりに勇気づけられたのも事実。行政はあてにならない。でもご近所ネットワークがあれば1日1日生きていける、などと思った1日でした。もちろん、すべてを自分自身で体験することはできませんから、相手の身になって感じるといっても想像でしかありません。でもいろんな国を旅行したり、立場の異なる人たちと出会って彼らの話を聴くことで、共感力の引き出しが増えるというか、幅が広がるのかなと思います。
■伝えるちから
次はいかにして相手に伝えるか。この数か月、インドの救急車運営会社で直面した一番の壁。それは、周囲が聞いてくれない!!に尽きます。大きな声で、繰り返し、しつこく要求を伝えるまで、物事は動かない。日本の感覚で言えば「怒鳴る」くらいでないと、相手は(言われたことをやらなくても)まだ大丈夫だろうくらいに思っているようです。しかも、ストレートに表現しないと伝わらない。日本的気遣いは無用。お互い言いたいことをストレートに口に出して、そこから折り合いをつけていくようです。はたから見ると喧嘩しているように見えても、実際は別に気にするでもなく、プロセスとしてそういう手順を踏んでいるだけみたい。オートリキシャの運転手から社長まで共通しています。
もう一つ日本との違いを挙げるとすれば、インド人は話好きというか、口頭でのコミュニケーションが好きだし、得意なようです。例えば、メールで依頼しても対応されないものが、電話を一本かければ即対応される。ルールやマニュアルなど書かれたものは全くといっていいほど読まないけれど、口頭で説明されたものはしっかり覚えて遵守する、という展開に何度直面したことか。
当初は「聞いてくれない!」とストレスを溜めていましたが、これも「伝える」側の力量次第だと思い直し、私も工夫するようになりました。ここに挙げたのはインドの、しかも私が体験した一部にしか過ぎませんから、世界各地には他にもさまざまなコミュニケーションの形態があると思います。要は、自分が慣れた日本式コミュニケーションスタイルと、相手のスタイルの違いを理解し、うまく適応していくことが大切なのかなと思います。
■Good Society
ニューヨーク研修の山場は1週間田舎の一軒家に泊まり込みで行うGood Society リトリートでした。リーダーシップ研修で有名なアスペン研究所のカリキュラムを参考にして作られたそうで、Good Society Readingと名づけられた古今の著作集を読み、議論をしていきます。プラトン、アリストテレス、ルソー、ホッブスなど、昔世界史の授業で名前を聞いたなーという古典もあれば、キング牧師やネルソン・マンデラなど現代の偉人の著作も。そして時には詩も。
昨年、日本でもハーバード大学サンデル教授の「正義」についての講義を録画した「ハーバード白熱教室」という番組が話題を呼んでいましたが、それに近いかもしれません。読み比べると面白いのは、誰もがより良い社会(Good Society)とはどうあるべきかを真剣に考え記した著作なのに、描く理想像はさまざまだということ。
さらにお薦めは、感想を語り合うこと。国籍、文化、宗教、家庭環境、色んなアイデンティティが混ざって、思いもしなかった見方が出てきたり、深く考えるきっかけをもらったり、新しい発見ばかり。時代、場所、文化的背景、社会的経済的地位などにより価値観が変わるのは、当然かもしれない。でも同時に疑問も。時代や場所が変わっても、絶対に譲れない価値観ってなんだろう。人権、自由、平等・・・。
よりよく生きるってどういうこと?
よい社会ってどんな姿をしている?
時代を超えて変わらない問い。
時代によって場所によって変わる答え。
重要なのは誰がどんな主張をしたかを把握することではなく、今と未来を生きる自分、自分の世代が何を選択するか。これらの著作はその選択をする際の参考になるのだと思います。自分の描く「Good Society」はどんな姿をしているだろうか。この人は、あの人は、どんな社会の姿を思い描いているのだろうか。
実はこのリトリートの際、少しもどかしい思いをしました。なぜなら、合計数百ページに上る読み物の中で、東洋哲学は仏教の八正道を書いた1ページのみ。アウンサン・スー・チー女史とリー・クアンユー元シンガポール首相の文献もありましたが、それを入れてもこれだけってどういうことでしょうか?!日本にも、中国にも、インドにも、脈々と受けつがれて来た思想があるのに。とりわけ、西洋の自然観(人間が自然を支配する)とは対照的な東洋の自然観(人間は自然の一部。大いなる地球の営みの中で生かされている)は気候変動・地球温暖化問題に向き合う上で欠かせないと思うのです。
ちなみにこの時、村上春樹氏のスピーチを紹介したところ、フェローの間に大きな共感が起こりました。率直で、等身大で、それでいて普遍的な人の尊厳を問いかける姿勢は、国を超えて一人ひとりを勇気づけるのかもしれません。(2009年2月エルサレム賞での講演:英語原文はこちら 日本語訳はこちら)
例えばこんな風に、今の日本には、世界に発信すべき声がまだまだあるんじゃないでしょうか。特に3.11後の今、そしてこれから。脱原発、自然エネルギー推進の動きは、まさにGood Societyを語るのみならず、実際に創造していく大きな一歩。
いかがでしょう? みなさんのお薦めGood Societyリーディングは何でしょうか?
<了>
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