世界地図を見てみよう:分割統治の怖さが見える

Yoshikawa

世界地図を広げてみてほしい。(白地図でOK)そこには、自然が生み出した地形のほかに、人の営みの結果生まれた線、国境がたくさん引かれている。

国境というのは、自然が作り出した部分(海、川、山、沼地、森林、砂漠等)と、人間が人工的に引いたものと、二種類ある。人間が引いた国境を見てみると、アメリカとカナダの国境のように五大湖を除けば大体まっすぐというものもあれば、アフリカの象牙海岸のようにかなり入り組んでいるものもある。 さて、質問。なぜ国境はまっすぐではないのか?答えは二つ。

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一つ目は、かなり入り組んでいるということは、そこの住民が他の住民と戦い続け、奪い奪われた歴史の産物だから。アジアでよくみられるパターンである。

二つ目は、外国人がある意図を持って勝手に国境線を引いたから。顕著な例はアフリカだが、19世紀にヨーロッパ列強がベルリンに集まって、アフリカ分割を決めた(ベルリン会議)。早い話、アフリカにおける列強の利害調整をして、イギリスの分、フランスの分、というように、勝手に線を引いて、勝手にアフリカ人に押し付けた。(独立を保てたのは、エチオピア。エジプトはイギリス保護領)そのため、今のアフリカの国境線はほぼヨーロッパ産。

列強たちはそれぞれの取り分を、一つの国として統治したのか?というと全然違う。いくつもの国として統治。しかも、ここで編み出した知恵が分割統治。あえて、民族や宗教等が違う人たちを少しだけ入れるように工夫して線を引く。しかも、その反対側(隣の国)はその比率が逆になるように。

例えば、1994年大虐殺が問題になった、旧ベルギー植民地ルワンダ。ここだと、8割強がフツ族、残りがツチ族。そして、同じくベルギー植民地だったお隣のコンゴでは、ツチ族とフツ族の比率が逆転する。こうしておいて、ルワンダだと少数民族のツチ族をベルギー人はわざとかわいがる。ツチ族は鼻が高くてヨーロッパに近いが、フツ族は鼻ぺちゃだから劣っている。とか意味不明の理由で差別する。

Yoshikawa 不思議なもので、人間、外敵よりも仲間の方に恨みは強い。そのため、フツ族はベルギー人に対して怒るより、ツチ族に対して強い怒りをもつ。そんな状態が続いていたある日、独立することになり、民主主義を導入した。ベルギー人に庇護されてきたツチ族は一転して不利に。そして、フツ族が政権を握り、ツチ族は微妙な立場におかれた。それでも何とか大した問題も起きずに年月がたっていった。しかし、30年も経ったある日、フツ族はツチ族に復讐した。しかも、大量破壊兵器はないから、フツ族がラジオで同胞たちにみんなでツチ族を殺そうと呼びかけた。みんな斧とかナイフとかを持って殺した。これが、悪名高きルワンダ虐殺。

当然、ツチ族は隣の同胞がいるルワンダ等に逃げていく。そこで武器や助っ人等を調達する。一方、フツ側も同胞が多くいるモブツ政権下のコンゴ、ブルンジ、さらにはベルギーやフランスまでも味方につけた。こうしてルワンダで内戦が起きたが、ツチ族側の勝利に終わった。さらには勢い余ってコンゴでも内乱がおき、ルワンダのツチ族の支援があって、モブツ政権を打倒しよう、と紛争が紛争を呼んだ。

こうやって、アフリカ人が仲間割れしてくれている間は旧宗主国は安泰。搾取したのは、ヨーロッパ人なのに、多少そのおこぼれにツチ族は預かっただけの話なのに、フツ族の怒りはベルギー人に行かない。

これが分割統治の恐怖である。(植民地である時は、この国境なるものは、日本の県境程度の意味でしかないが、独立後絶大な効果を発揮する)いつ爆発するかわからないが、何かの拍子で爆発する。まさに時限爆弾。

ミソは、一国だけ済まずに、多国間で調整しないとこの問題が解けないという仕組み。少数民族の支援基盤は隣の国にあるのだから、手ごわい反乱軍になりうる。こうした話は何もルワンダ、コンゴだけにとどまらず、スーダンでも起きている。

スーダンの場合、石油が取れるため、一層事を複雑化している。国内内部分裂が長期化するのは、スーダンの戦国大名たちが武器を持ち、政府軍と戦っているからだ。戦国大名の財源は石油収益だが、当然安く売らざるを得ない。一国がまとまって外国や外国企業と交渉すればまだ強気な取引ができるが、力が弱い政府や戦国大名クラスだと価格交渉は有利にはならない。ましてや、内戦中で石油収益の多くを武器に回さざるを得ないのなら、なおさらだ。外国側はバーター取引で、石油を安く買いたたき、不良品の武器を渡せばいい。大名が文句を言ったところで、武器がほしいのはバレバレなので、完全に足元を見られている。

Yoshikawa 中東でも分割統治は機能している。中東はもともとオスマントルコ帝国の一部だったのを、少しずつ戦争しては切り崩していったから、正式なベルリン会議なるものはなくても、列強、特に英仏の影響が強く残っている。例えば、イラクという国自体、イラン(ペルシャ帝国)の力をそぐためにヨーロッパが作った国だ。中東の場合は民族でなく、宗派(シーク派とスンニ派)で分けている。ペルシャ湾沿いのバーレーンはシーク派が少数民族だけど、対岸のイランはシーク派が多数派。だから、イラン側が今回の動乱でシーク派を支援しようとし、スンニ派のサウジがバーレーンに軍を派遣し、イラン側の影響が強まらないよう押さえ込んでいる。放置すれば、サウジとイランとの間で敵対意識が高まる。

また、アジアの場合、インド独立の際に、旧ムガール帝国を、インド、パキスタン(のちに、バングラディッシュも)に分割した。これも、インドの力をそぐため。その狙いは的中し、印パ戦争を三回も繰り返し、未だにカシミール紛争でもめている。

戦前、孫文は、日英同盟が日中間を裂く分割統治政策の一環である、と主張していた。(済南事件までは中国の最大搾取国といえば、イギリスというのが相場だったため、中国の敵と同盟を結ぶとは何事だ。という思いがあった)

戦後日本について、連合国側は敢えてサンフランシスコ条約で日本の国境を定義しないまま独立させた、という学説もある。(実際そうした意図があるのかについては学説が分かれるところだが、状況証拠的には限りなくクロである)国境を設定しないことで、日本は、周辺の小島のせいで周辺諸国と領土問題を抱えさせられ、労力や資源を逸らせることで、日本の発展を妨げられる、という読みだ。その通り、日本は未だ領土問題を一件たりとも解決できていない。

また、今世紀誕生した東チモールについても、インドネシアからの独立は欧米諸国の援助なくして実現できなかったといわれている。その下心は、そこから産出される天然資源。インドネシア政府と交渉するよりも、国家運営資金がなく、外国援助で当面やっていくしかない、新生東チモール政府との方が有利であることこの上ない。

このように国境と分割統治を見るだけでも、国際紛争の発生理由の大きな部分が見えてくる。

<了>


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