誰がためにルールはある

2000

大震災の後、多くの日本人が冷静に行動したと海外から評価されて、日本人的には「当たり前のことをしただけなのになぜ?ルールは守るのが当たり前です」と感じてしまう。

残念ながらそう思える人は海外だと少数派。基本的な発想としては、「ルールは自分が損しない限り極力守らない。できるだけ出し抜くためにあるものだから」と考えられる。

なぜルールを出し抜こうと考えるのか?自分が作ったルールでなければ自分に不利なものであるはず。とまず疑うから。ルールを考える立場にある人は、大体その社会の中で上層の人たちである。大筋自らを上層であり続けるように、彼我の所得、身分などのもろもろの格差を維持、あるいは拡大するために知恵を絞り、その一環にルール作りが存在する。「みんなに公平に」という発想はあまりない。

例えば、現在も金融機関にその名を残す、アメリカの銀行家にして大富豪のJ.P.モルガン。彼の存命中にアメリカ政府は相続税を導入することすらできず、彼の死後(モルガン家に相続税がかからない状態になって)ようやく導入できた。何もそれは20世紀までの話ではなく、現代でも、ブッシュ(子)第一期に実施した富裕層への減税政策により、アメリカで著名な投資家ウォレン・バフェット氏よりも彼の受付嬢の方が高い税金を払う。という笑えないジョークが生まれている。(本人もばかばかしい事態だと認めているとのこと)

Yoshikawa

そして、今アメリカ議会では、富裕層への増税を反対する共和党がかたくなに、1-4兆ドル単位の歳出大幅削減と引き換えに約8000億ドルの富裕層への増税求める民主党案を拒否し、アメリカはデフォルト直前までいったが、民主党側が増税を見送り、約2兆ドル削減で共和党と合意に達し、デフォルトはぎりぎり回避された。ミネソタ州政府は富裕層への増税の是非で予算の折り合いがつかずに一部政府機能を停止に追い込まれ、15日後に州知事が大幅に折れる形で政府機能再開の目処がついた。この間、高速道路の休憩所から動物園まで、さまざまな公共施設が閉鎖し、庶民の暮らしにダメージを与えた。

これほどまでに「法律」というルールを作る者が、庶民がどれほど苦しもうが富裕層優遇のために働いている。こうした上層を持つ人々は、当然ルールなるものに対し自らに不利なのであろうと疑ってかかっても仕方がない。その疑いを晴らすべく、このルールを守らないと自分が損するからこのルールを守れば自分は得をするというインセンティブを付けて、動いてもらう。

例えば、日本にはほとんどないチップ制。ちょっと荷物を持ってもらえば、ちょっとドアを開けてくれれば、ちょっとお皿をキッチンから運んでくれれば、チップが貰える。それがために人々は同僚とおしゃべりをする前に、ドアを開け、お皿を運んでくる。日本だと当たり前の話だが、固定給である限りできるだけ働かないほど得だ。そんな考えが蔓延している。(もちろん上昇志向の人たちは熱心に働き、管理職へと昇っていくが)

Yoshikawa マクドナルドのメニューで有名なスマイル0円。これもまた日本人的には客が前に来ればスマイルで当然迎えるものと決まっているが、母国アメリカではそうではないので、従業員に対し客はスマイルを請求する権利があると明記しているのである。日本では当たり前の、百円均一ショップで店員がスマイルで丁寧な対応をすることの方が驚異なのである。(よくこの手の質問を受け著者はよく困らされるのだが)

これを、国際関係にも当てはめることができる。国際ルールを作る者は、自分に都合のよい国際環境を作ることを最優先する。そのため日本みたいにアメリカがこういう国際ルールを主張しました。仕方ありません。じゃその通りにしましょう。というような発想は微塵もない。

例えば、幕末から明治にかけて列強はそれまでヨーロッパ内でしか通用していないルール、あるいはヨーロッパはみんな採用しているから、そのルールが世界中に広まれば、自分たちは有利というコンセプトをその他の世界の地域に押し付けた。アフリカにそもそもなかった国、国家というコンセプト(季節その他もろもろの条件により、あちこち移動する習性をもつ民族としては迷惑以外何物でもない)から始まり、国際法、民主主義などなど。ヨーロッパ諸国どうしで政治体制が未熟だから、不平等関係にしましょう。なんてルールはそれまで存在していなかった。ルールを決められる国がその場その場で自分たちに都合のいいように考えていた。

戦後もブレトンウッズ体制が好例だ。IMF総裁はヨーロッパから、世界銀行総裁はアメリカから、アジア開発銀行総裁は日本から、と選出国が不文律で決まっている。そうしてこうした機関が世界のどこの国(政府)に資金を回すかを決める権限を何十年も持ち続けいる。世界銀行は最後の砦(他のどの金融機関から断られても、ここだけは受け入れる)として機能しており、ここからの借款を返せなくなってしまったら、世界中のどこからも資金を貸付してくれるところはない。(世銀の借款を返せなかったのは、北朝鮮くらいだ)として影響力を維持してきている。

最近のアジアでの国際政治で見てみると、まず北朝鮮問題がある。金日成死去後、北朝鮮が核開発を停止する代わりにアメリカが10年分の重油、軽水炉2基を提供するという「枠組み合意」が米朝間でなされたが、この際アメリカだけがこれらのものを提供する意思はなく、日本と韓国に発言権も与えられなかったのに請求書だけが回され問題となった。そのためアメリカは北朝鮮との二国間協議を退け、現在六カ国協議という形に落ち着いた。

他にも今一生懸命日欧米が中国を非難している知的所有権問題。この知的所有権が適用される範囲は決して無限ではない。これが無限なら中国は世界に対し、中国の四大発明(羅針盤・火薬・紙・印刷術)の知的所有権を請求できるところだが、(そして中国もきっと知的所有権が問題になるたびに、心の中でそう思っているだろう)知的所有権のルールを決めたのは中国でないからそういう風にはできていない。

このようにして、ルールを作る側にいなかったものは基本的に不利な状況におかれる。そのため、通常は必ずどこか抜け道はないのか、例外はないのか、なければ作れそうにないのか、抜け目なく探し回り考え抜く。その一方、常に国際ルールの作るプロセスに食い込もうとする。

だからいつもルールを守らない国が、ルール作りの仲間外れるほど、特にたくさん横行する。ルールを作った国でさえ、自分の国益に反すれば実行しないことさえある。例えば、OECDによるODAに関するルールがあるが、これは日本企業がODAの紐付き援助により外国プロジェクトで欧米企業を圧倒したため、紐付き援助をなくそうとし開示義務を押しつけたものだが、日本以外のOECD諸国はまじめにこのルールに遵守していないという。

例外的に日本の場合、欧米が用意したルールを苦労しながらもクリアしてしまった。その挙句、日米貿易摩擦の頃には、アメリカも新しいルール作りにはかなり苦労し、日本の労働者の休暇が少なすぎる、とか意味不明な議論を展開した。(これは海の日という新しい祝日を生み出した)日本企業に融資していた邦銀の自己資本金比率は低いが、欧米の銀行はそうではないことに着目し、BIS規制(自己資本金比率を最低8%とする)を導入し、邦銀は苦戦することになった。

ずるいといえばずるい。それが嫌なら自ら国際ルールを決められる立場になることである。一人では作れるほど力がなければ、どこかと連合を組む。このくらいしか対抗手段はないだろう。

Yoshikawa だが、ここで考えなければならないのは、誰にとっての「ずるい」なのか、だ。多くの人々に有利になるように、と考えたところで完璧にフェアなルールはなかなか作れるわけでもない。決していいとは思わないが、ルールを作る者を制する共通倫理もない。世界共通ルールは、栄枯盛衰、形あるものいつかは壊れるくらいしかないのだ。

またこの考え方は必ずしも悪くはないかもしれないと思っている。 なぜなら、社会の新陳代謝をもたらしていると思うから。ビジネスで行けば、日本発よりもアメリカ発の方が断然多いが、新しい概念や会社、マーケットがどんどん生まれている。これは、従来と違う視点や切り口で社会を見て、提案して受け入れられるからだ。そして頂上にたった人が新たにルールを決める。それでもチャレンジャーが土俵の切り口を変えて、マーケットや社会を変えて勝つこともある。そうすると、競争に勝てなかった既存リーダーはお払い箱になるけれど、そのマーケットや社会全体としては新陳代謝が行われることになる。

<了>


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