自己主張、PRは大切

Yoshikawa

■昔は日本人も自己主張、PRは出来ていた

何かにつけ聞く言葉「ものづくり」。バブル期後自信喪失した日本企業の多くが、「財テクなどといった性に合わないもので儲けようと思ったのが間違い、本業の製造に戻ろう」というコンセプトで生まれた言葉だ。コンセプト自体悪くはなかったが、行き過ぎて今や高度技術への引きこもりと化しているのではないだろうか。これほど日本の対外PR不足、自己主張の欠如を如実に表している言葉も、またない。

しかし、昔からできていなかったわけではない。例えば渋沢栄一。

第一次世界大戦中アメリカが参戦する前、中立の立場からイギリス側についている日本に対し、くず鉄を売らないと言い出した。当時は船を作って儲けまくって船成金ができた時代。鉄がなくなってしまったら大変なことになると、日本の銀行家代表「渋沢栄一が」USスチール社長と直談判して何とか対日輸入を確保した。しかも政府の介入なく。現代の鉄鋼交渉では、民間業者間による交渉はおろか政府間でも決着はつけず、WTOにまで持っていってようやく解決を見ているのだから、この民間業者同士で解決できるというのは、現代と比べいかにすごいことか。

外交面でいえば日露戦争。伊藤博文が閣僚会議で開戦を決定したその日に娘婿の末松と、当時アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトの学友であった金子堅太郎を、それぞれイギリスとアメリカに派遣した。その意図は同盟国・イギリスでの日本の立場のPR、戦争終結時には仲介者となるであろうアメリカの世論を日本に有利になるようにPRすること。(イギリスは日本側、フランスはロシア側の同盟国でプロシアは親露的とみなされたので、中立であるアメリカが妥当、と伊藤は開戦前から計算していた)

Yoshikawa かくして、金子堅太郎は一年間アメリカ、特に東部を南北に何度も行き来しながら、アメリカの有力者に日本の立場を説いて回った。たまたまロシア側の大使が前半いい加減だったこともあり、かなりアメリカ世論を日本側に誘導できたという。(戦争終結直前にワシントンに送り込まれたロシア大使が優秀だったので、アメリカ世論は五分五分のところまで戻された、といわれているが)

但し、その後第二、第三の金子堅太郎が必要と言われながら、永遠に生まれず未だにいない。

また、昭和初期に日本人が外国に堂々と自分たちの考えや思いを外務省が言ってくれないと思っていたときに、英雄視された政治家がいた。松岡洋右である。松岡は当時外務省を辞めて衆議院議員になっていたが、国際連盟脱退時に英語が達者だからという理由で国際連盟総会に派遣されていた。そこで脱退時に2時間くらいかけて堂々と原稿なしで英語の大演説をする。(いわゆる、「さよなら演説」だが、実際にさよならと言ったわけではないらしい)出発前に本人は脱退を避けるつもりだったが、日本が満州国を承認してしまった以上、にっちもさっちもいかなくなって、どうせ脱退せざるをえないなら、というので達者な英語で日本がどういう考えで満州を守り、中国側がいかに日本の要請(在満日本人に対する犯罪者の取り締まりやソ連との国境守備の充実)を反故にしているかを滔滔と語った。帰国した松岡は大歓迎され、英雄視されるまでに至ったという。

■自己主張、PR力の威力

当時と違って現代は、外交や自己主張で多少対外的に負けても、そうそう日本はつぶれないだろうと思われるかもしれないが、PR不足・自己主張力欠如がどれほど痛いものかは知っておいて損はない。PR力がいかに国際政治に影響を与え得るかを示す絶好の事例がボスニア紛争である。ボスニアの存在すらどこにあるのかも知らないアメリカを、ボスニアの大統領・外相が隣りの強国セルビアとのパワーバランスの釣り合いを取るために引きこんだ事例である。

ボスニア国外相が単身自国の立場を訴え、アメリカに味方してもらおうと訪米し、当時のベーカー国務長官から貴重なアドバイスをもらう。即ち、ボスニアには今のアメリカの関心はない。アメリカを動かしたかったらメディアを動かせ。CNNクルーは現地にいないか?

この会見で目覚めた外相が取った行動が、アメリカの某PR会社を雇うこと。この外相、英語ができハンサムで弁舌力もすばらしい元歴史学の教授だったので、PR会社の担当者が彼をボスニアの惨状を語る欧米メディア好みのスポークスマンに仕立て上げた。ワシントンのメディア、議会、ホワイトハウスという、ワシントン政治の三本柱に働きかけ、ボスニアではムスリムがセルビア人に迫害されている、というニュースをひたすら売り込んだ。

さらに時は彼らに味方する。ちょうど1992年アメリカの大統領選の年。クリントン陣営にもボスニアの惨状について何もしないブッシュ大統領(父)を批判できるように焚きつけ、ブッシュ陣営も何もしないという状態はまずい雰囲気にさせた。

とどめは、あの有名なキャッチコピー、「民族浄化」、「強制収容所」。前者は、服に付いたしみを洗剤で洗うように民族を抹殺する(英語ではethnic cleansing)という強烈な言葉だった。後者は当然ナチスの残忍行為を連想させ否が応でも武器を取らねばならない、という雰囲気に欧米人を焚きつけた。その後、セルビア側のPR巻き返し作戦が始まり、二転三転するのだが最終的にはNATO軍をしてセルビアを空爆させ、優勢だったはずのセルビアを交渉のテーブルに着かしめデイトン合意に至った。(詳細は、高木徹著「戦争広告代理店」を参照)

Yoshikawa もし、ボスニア側がPR会社を雇わなかったら、現在国そのものが存在しているか疑わしい。下手をすれば一国の運命を左右するくらい、PR・自己主張は大事である。

そして、ワシントンにはこのボスニア外相のように、世界中からアメリカに対し様々な便宜を求め、PR・自己主張・ロビイング・陳情を目的とする人々が押し寄せる。もちろん、相反する利害関係を持つ人々がやってきて、PR合戦になったり、議論になったり、とにかく事実に正しいことを言っているかどうかより、潤沢なPR予算に物を言わせて意見を広めた方が勝ったり、PRのアイディア如何で予算が少ないものがより効果的に聴衆の心を掴んだり、とそれぞれ懸命に自己主張している。

<次ページへ続く>

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