地政学に基づいた多極化世界(世界編)

Yoshikawa

■覇権の衰退期は危険な時期

一般的に覇権国の衰退、また新興国の台頭は非常に危険な時期である。大体一度は戦争が起きる。

世界近代史を振り返ってみれば、最初に大航海時代の口火を切ったのは、スペイン・ポルトガル。ポルトガルは人口が少なすぎて覇権を狙えなかったが、スペインは南米に進出し、黄金を手に入れ大いに繁栄した。これに対抗したのがイギリスだ。イギリスが海賊たちにスペインの商船から略奪するのなら「海賊からイギリス海軍に昇格させてやる」というお触れを出し、スペインの富がかなり奪われた。これに激怒して、スペインの無敵艦隊がイギリスに押し寄せたが、アルマダの海戦という一連の海戦でイギリスが勝ち、大英帝国の時代を迎える。

Yoshikawa その後通説では、大英帝国はぼーっとしていたので、アメリカに覇権を取られたという事になっているがやはり戦争は起きている。イギリスとアメリカの間では米英戦争があり、もう一つの新興国ドイツとは第一次、第二次世界大戦がある。この戦争の最中にイギリスは覇権の大事なツールである、世界各地に散らばっている軍事基地や施設を事実上二束三文でアメリカに売り払い、シンクタンクなる組織もコピーさせ、諜報も共有するなどの形でアメリカに次期覇権国としての教育を施した(大英帝国以降、世界覇権はこうした大掛かりなツールや世界各地の専門知識、コストがかかり、そのメンテナンス費用だけでも馬鹿にならないのだ)。

また、明治日本だとて新興国として台頭する過程において、日清戦争・日露戦争が起きている。そして、未だGNPがヨーロッパの弱小国イタリアの1/7でしかなく、国力的にアメリカの比ではなかった時代に早々と太平洋戦争でアメリカによって潰された。

このように歴史的にみれば、覇権国の衰退、新興国の台頭は通常戦争を伴うものなのだ、よほど考え抜かれた仕掛けがない限り。考え抜かれた仕掛けとは何かというと、例えばNATOであり日米同盟だ。戦後日本とドイツが新興国として戦争を引き起こさずに発展できた理由そのものである。

つまり、それぞれ7年、10年間(ドイツの場合は西ドイツ)の米軍による占領期間を経て独立する前に、アメリカが日独で親米政権が生まれるように土壌をならし、同盟という国内、特に軍司令塔の情勢を把握でき、軍同士の密接な接触が可能となる体制を作り上げた。そして、軍同士が密接であるということは、日本にとり国防総省、特に米海軍という強力な日本の味方をアメリカ歴代政権にインストールするということでもあった。

そのため、戦前の日本の場合、アメリカは黄禍論、移民問題から発展し日本をけしかけて太平洋戦争を起こしたのに、戦後日本と貿易摩擦でいかに争おうとも、日本を危険だからアメリカが力のあるうちに戦争で叩きのめしてしまえ、という物騒な議論はアメリカでは起きなかった。それは、ひとえに戦争を担当している軍を味方にして、そんな議論がありえない状態にしているからだ。(例えば、船橋洋一著「同盟漂流」では、クリントン大統領時代、ミッキー・カンター通商代表がビル・クリントン大統領に日本と貿易摩擦問題で強硬姿勢をとるぞ、と了承をとったすぐ後に、ウィリアム・ペリー国防長官が急いでやってきて大事な同盟国日本との関係を貿易問題でひどく悪くさせないでくれ、と大統領を説得し、大統領があわててカンターのところにやってきて、やっぱりちょっと待ってくれ、と調整したという場面が描かれている)

このように、覇権国を味方に持つ、覇権国に軍事的脅威を抱かせない仕掛けがあってこそ、初めて新興国の平和的台頭が可能となる。

だが、現在新興国とみなされている中国やインド等には、そういう仕掛けがまだない。そのため、ものすごく繊細に慎重に世界が動かなければ、戦争がいくつも発生しかねないのだ。2011年8月バイデン副大統領が訪中後、アメリカは中国の増強中の軍事能力とその意図への懸念について強く認識しており、そのため中国側の思考を理解すべく中国軍と協働しているという趣旨をNYタイムス紙に寄稿したのは、そういう認識があってこそだ。

まだ一つ釘を刺しておくと、安直に米中同盟、米印同盟を結べばいいのでは?という問題でもない。同盟を結べば直ちに、日米同盟のような関係が築けるわけではないのだ。高度な政治的判断とそれが許される状況が国内、国外共に成り立ち、かつそれを維持していくというトップのコミットメント、財政的、政治的コストを負担するという継続的意志が双方にあって、両国の理解者が双方に適所に配置されて、かつ国民に支持され続けるというきわめて稀有な状況の下においてのみ、同盟関係はかくも長く存続可能なのだ。

Yoshikawa 日米安保条約締結時、アメリカ側に日本に米軍基地がほしい、防共防波堤となってほしいという戦略的ニーズが、日本側には占領の終了、終了後は米軍の日本防衛援助というニーズがあり、冷戦という状況が明確に仮想敵国はソ連として軍事同盟を結ぶことができ、冷戦時代の間ずっとこうした戦略的関係は維持された。また同盟を側面から支える、国際文化会館を作った松本重治、ジョン・ロックフェラー三世(親日派の上院議員ジェイ・ロックフェラーの父)らからエドウィン・ライシャワー元駐日大使、マイク・マンスフィールド元駐日大使、牛場信彦元駐米大使、小林陽太郎日米欧三極委員会太平洋アジア議長、山本正日本国際交流センター理事長、ケント・カルダージョンス・ホプキンス大学(SAIS)教授に至るまで人的ネットワークも脈々と引き継がれている。

双方にとり互いが主要貿易相手国である等から分かるように経済関係も密接なものであり続けている。(詳細はケント・カルダー著「日米同盟の静かなる危機」参照)逆に、こうした努力にも状況にも恵まれないと、同盟は戦国時代の中国に見られた合従連衡、18、19世紀ヨーロッパに量産された、短命のその場しのぎ的な同盟にしかならない。

<次ページへ続く>

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