地政学に基づいた多極化世界(世界編)

Yoshikawa

■ どうせ多極化に進むなら、自国に都合のよい多極化を

では具体的にどう世界は動くのか?それはまだ誰も分からない。分かっているのは、G20や地域大国と言われている国々が、今がチャンスとばかりに様々な思惑をもってパックス・アメリカーナの衰退がもたらす力の空白を埋めるべく策動しているということくらい。そのため数年前くらいからこうした国々が多極化世界について静かに議論が進んでいると考えられる。

一般的に覇権国は多極化世界に向け、どういう思惑を持ち、動くだろうか?選択肢としては、新興国の力が大きくなりすぎる前に新興国を叩く、禅譲、パワーバランサーとなる、といったものが考えられる(数カ国の共同統治という考えもなくはないが、共同統治は不安定なためいずれ崩れ、上記3つの選択肢のいずれかになるだろうと考える)新興国を叩く、禅譲については、既に上記で前例を説明済みだ。

そこで、ここでは第三の可能性、パワーバランサーの道について考えてみよう。パワーバランサーのイメージは、ヨーロッパ大陸諸国の強国間、強国と弱小国とのパワーバランスを外交ツール、軍事力、以前紹介した分割統治の知恵等を駆使して保つことにより、イギリスに対抗するような強国、強国連合を作らせなかった状態(世界から見れば、多極化状態)が最も近いだろう。これが、今のアメリカにとって一番受け入れられやすいだろうと考えている。覇権時代よりも少ない資源で他国よりも優位に立つことができ、アメリカにとり安全で、かつ世界ナンバーワンとしての体面を長く保つことができるから。

実際アメリカがどうパワーバランサーとなっていくかについては、地政学が参考になる。地政学とは、読んで字の如く地理学と政治学のかけあわせである。世界地図を見れば、世界の趨勢が理解できるというのが、本来の主張だが、要は、世界にはシーパワーとランドパワーがあり、シーパワーは海から内陸へ、ランドパワーはその逆で内陸から海へとその勢力を拡大しようとする力が働く。そのため、ユーラシア大陸の半島や近辺の島、沿岸諸国等は、こうした力学の狭間(リムランド)にあり、戦略的重要性が高いため、シーパワーもランドパワーもリムランドを制する、或いは相手に制させないことが重要である、と説く。

Yoshikawa 事実この通り、19世紀のシーパワー(大英帝国)とランドパワー(ロシア帝国)が競ってユーラシア大陸における力の空白を埋め尽くす、グレート・ゲームを演じたことがある。当時大型船で新規海路が開拓され、大きな荷物を運べるようになると、海軍の機動性が飛躍的に向上し、制海権を握る国、イギリスが絶大な優位性を握っていた。イギリス海軍がアフリカ大陸を回ってなお、虎の子植民地インドを脅かすような機動性をもつ近代国家軍はなかった。

しかし、ヨーロッパの後進国と思われていたロシアに、陸軍の機動性を一気に引き上げる鉄道敷設が現実味を帯び始めると、事態はイギリスに不利になる。ロシアの内陸から南下する鉄道を建設されたら、イギリス海軍がインドに到達するのにかかる日数よりもはるかに少ない日数でロシア軍がインドに到着できるとなると、インドも安泰とはいえなくなるからだ。そこで、急遽ロシアは北から、イギリスは南から、ユーラシア内部を探検し、現在のウズベキスタン、アフガニスタン、イラン、コーカサス、チベット、中国等で両者が出会ってはつばぜり合いを展開していった。(そしてその延長線上に、日露戦争がある)

そして、こうした思想をアメリカ側の立場にたって論を展開すれば、アメリカがユーラシア大陸への足がかりを失わないために、リムランドを一国によって支配されることを避けるべし、よってハートランドを囲い込むには、リムランドへの積極的介入が必要である。そのため、アメリカの国益は、リムランド統一への動きを阻止する国たちと協力関係を構築・維持していくこと。実際、この思想はアメリカ側の提唱者、スパイクマンから冷戦体制の青図を描いたジョージ・ケナンに引き継がれ、ソ連の封じ込め戦略につながった。

そして今なお、「地政学で世界を読む」の著者、ズビグネフ・ブレジンスキーが今またオバマ大統領の外交顧問にいる。そう考えると、オバマ政権の初期外交において、トルコに外遊し、イランと仲良くしようとしたり、イスラエルとパレスチナに和解を押し売りしたことが頷けるのである。中東はまさにリムランドであり、中東の反米感情を下げ、アメリカの中東への関与が減っても同盟国イスラエルが立ち行けるようにするためには、長年の懸案事項であるパレスチナ問題を解決する以外になく、イラン(昔のペルシャ帝国)とトルコは、歴史的に見ればロシアの南下を阻んできた2強国であるから。

アジアで考えた場合、アメリカにとって東南アジアを中華圏にされるのは甚だ迷惑であり、クリントン国務長官が南シナ海の所有権を巡って中国とベトナム、フィリピンなどが反発すれば、後者の味方をする。日中間で尖閣諸島をめぐり問題が起きれば、クリントン長官は日米同盟は日本の領海を防衛範囲に含めると発言する。基本的に、日本や韓国には、中国をけん制する力として期待している。

そういう意味で、日本が元気なく、失われた十年が二十年になり、毎年首相が代わり、経済再興までの時間がますますかかってしまうことを危惧しているのである。そのため、安易なジャパン・ディッチング(日本を見捨てる)は起きないだろうが、あまりに日本が期待通りのけん制力にならないと判断されると、その可能性は否定できなくなるだろう。

<了>

 

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