平和は作るもの

yoshikawa_eyacatch

■平和の作り方

一つ考えてほしい。なぜ日本は襲われないのだろう?世界で三番目にお金持ちの国だし、日本人は勤勉だし、従順である。日本と戦争してわが領土とし、日本の富を我がものとし、日本人を奴隷にして自国民はみんな左うちわで暮らしていこう。という発想が世界のどこかでおきても、本来全然おかしくない。世界史は裕福な国ほど狙われることを教えている。

だが実際には第二次世界大戦後日本本土が侵略されるということは起きていない。なぜ?

世界中の人々が日本ファンで、日本にはいつまでも平和で美しい国であってもらいたいという、世界の愛に包まれているからではない。あけすけに言ってしまえば、日本を襲っても勝てる見込みが、まずないから。世界最大の軍事大国アメリカがその同盟国に控え、自衛隊+在日米軍が日本に物理的にいるので、真っ向からの戦いを挑んでくる国はいない(これを専門用語で抑止力という)。

では、自衛隊+在日米軍の組合せでなぜ抑止力が働くか?といえば、米軍が世界最強の軍隊であり、常に新兵器を開発し、重要かつ新兵器を買えるお財布を持っている国(日本とヨーロッパ)に売るので、日本には核兵器がなくても最新兵器が大体そろっている(最近でいえばミサイル防衛はいい例だ)。また米軍は頻繁に戦争をしているので、戦略・戦術も非常に洗練されている。そして時折合同演習を行っては、周辺諸国に「どうだ、すごいだろう。まかり間違っても襲おうと思うなよ」というメッセージを発している。いわば筋骨たくましい大男が指の関節を鳴らして、周囲を怖がらせているようなものだが、その筋骨がたくましくみえるほど通常周りの戦意は喪失する。

そのため、強いものはいかに強いかを見せびらかし、弱いものは自らの弱さを隠そうとする。例えば、アメリカは高らかに自らの軍事費を公開するし、戦争中なら最新兵器を実際に使って相手を倒すところをCNNクルーを従えて世界中に宣伝する。一方、中国は自らの軍事費を一応公開しているが、一般的に知られているNATO基準とあわせようとせず実態はよく分からない。

とはいえ、いくらでも軍事力を強くすればいいものでもない。通常お財布を始め、国力と相談しながら軍備する。どんな国でも、自国経済や技術力を無視して軍事力を無制限に拡大するわけにはいかないから(太平洋戦争末期の日本でGDPの約4割超、軍事国家・北朝鮮で約3割といわれる)。

そういう財政的制約を考慮すれば、いまどきどの国も自国を自らの力だけで守るというのは無理である。伝統的な国家同士の総力戦以外にテロ、サイバー攻撃、近隣諸国の混乱、SARS、鳥インフルエンザなど伝染病、地震や津波といった自然災害などの形で様々なリスクが考えられる。伝統的な国家同士の総力戦だけに限っても、日本以外はすべて敵、と思って世界(近隣諸国でもいいが)を見渡し、すべてに勝算を持てるだけの軍事力を持つとすれば、これまた非現実的だ。

日本の太平洋側の隣国はアメリカであり、アメリカ以外の軍事費トップ100カ国分の軍事費を足しても、アメリカの軍事費はおつりがくる。そんな国を相手に想定したら、いくら軍事費があっても足りない。ましてやアメリカを同盟国としてはずすにしても、世界第二の核保有国ロシア、旧日本軍が苦戦した中国が控えている。日本単独で両国に勝てるだけの軍事力を持つというのも、また非現実的である。

Yoshikawa ここで「戦争論」の著者、クラウセヴィッツの格言「外交の延長に軍事がある」が生きてくる。即ち、外交の分野でどの国と同盟関係や友好関係を結ぶか、どの国を仮想敵国と定義し、必要な政策を実行しつつ、軍事の分野で仮想敵国に対抗するだけの軍事力をいかにして持つかを具体的に計画し、装備し、日ごろ訓練していく。こうすれば全てを仮想敵国扱いして、膨大な軍事費をかけなくて済む。そして、仮想敵国と対立し外交的に解決できなければ、軍事的手段に訴える。

冷戦当時、永井はこう書いた。「日本の安全保障と防衛の基本問題を要約すると、「意図」の点は別として、その潜在的な脅威と「能力」という点からみれば、明らかに、第一に米国、第二にソ連、第三に中国が、日本にとって「脅威」である。したがって、論理的には、その優先順位にしたがって、外交による友好関係を持続し、なんらかの相互の安全保障体制の確立によって、相手方を無害化する外交路線が、国防費を削減し、日本に、行動選択の大きな幅をゆるす道なのである。」(下線は著者加筆)

その通りに、日本の場合第一の潜在的脅威、アメリカとの関係を最優先した。占領・冷戦という状況下、日米安全保障条約を結ぶことでアメリカに日本の防衛義務(日本が外国から攻撃を受けた場合、自衛隊は外国からの攻撃を日本本土で専守防衛する一方、アメリカがその攻撃国に出動して反撃するという約束)を負わせた。その代わり当時第二の脅威ソ連を敵視していたので、日本は冷戦体制下では仮想敵国ソ連に最も近い北海道に自衛隊を多く割いた(別に雪まつりのためにいたわけではない)。

また、アメリカは当時正統な中国政府と台湾の国民党政権とみなしていたので、日本は中国大陸との貿易に色気を持ちながら、ニクソンに触発された田中首相訪中まで、台湾を正統な中国政府とみなし国交を築いていた。現在、ロシアの脅威は大分後退し、中国の潜在的脅威が拡大しているが基本的ロジック(下線部分)は同じ。

このように、アメリカとの関係を最優先したことで、冷戦時代ソ連や中国(冷戦前半だけだが)との関係を犠牲にしたわけだが、何事もプラスもあればマイナスもあるということである。各国は、一つ一つ他国との関係の上で、プラス・マイナスを考え、どちらがより大きいか、より安全かを考えて行動する。国益に沿わない義理人情は基本的に通用しない。「国家間の関係が、けっきょく、冷たい利害のうえに成立している、ギブ・アンド・テイクの関係である」という現実を忘れてはならない。

日米同盟のプラスとマイナスはこればかりではない。この点については次回触れていきたい。

<了>

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