日米同盟はなぜ必要か?

日米同盟の本は数多あれど、なぜ必要か?という説明はあまり聞かれない。あまりにも当たり前すぎて書いていないのか?と思われるかもしれないが、船橋洋一著「同盟漂流」に、外務省の上の方が部下たちに日米同盟がなぜ必要かを紙に書いて出せ、と指示したところ、出てきたものは国民のみなさんには恥ずかしくて見せられない代物だった、というくだりがある。この本が扱っている時代は冷戦直後のクリントン・橋本政権時代。その後成長しているのでしょうか?
そのくらいあるのが当たり前に思われているが、高校までで条約締結年、改定年、調印内閣くらいしか教えないでいるのだもの、最初の一歩は、メリット・デメリットを定義して、その存続の是非を考えるところから始めるべきだろう。ここを踏まえないで、基地周辺で起きる事件を云々しだすと、とんちんかんな議論に終わる。
ある人は言う。
「台湾も韓国も軍事政権から民主政権に移行したときに、同盟を含め前政権の政策が見直され、彼らの側からの同盟の存在理由が問われ、その問いを乗り越えてきた。今、日本で実質初めて民主党政権になって移行期間に差し掛かっている。と考えれば、今こそ同盟の真価が問われている。」
なかなかいいポイントだと思うので、同盟の真価とは何かを日本側から考えてみたい。
■メリット
1)日本の防衛力補強
前回説明したが若干以下補足しておく。
吉田ドクトリン(軽武装、経済再建最優先)を後生大事に死守してきたのだから、そもそもその経済力に見合った軍事費を費やしていない。通常、大国レベルでGDPの2-3%であるから、日本のGDP1%枠は非常に少ない。尤も周りに脅威がなければ、それでもいいのだが、日本は残念ながらそれほど恵まれた状況にはいないし、外交で潜在的脅威を中立化する努力があまりに足りない。近隣に中国という軍事力を増強してきている国があるのに、朝鮮有事を否定できないにもかかわらず(防衛白書には要注意と書いてあるが)のん気に軍事費を削れるのは、ひとえに同盟があるが故である。また核を持たないという選択肢も、ひとえにアメリカの核の傘があればこそ、である。
そして日本の防衛というとき、それは本土だけのことを指すのではない。日本と中東の間のシーレーンなど海外での日本の権益保護も含まれる。どこかで戦争がおきたとき、邦人がいればその身柄や、邦人資産の保護に乗り出さねばならない。シーレーンのどこかで海賊がでれば、守らなければならない。
それなのに、日本本土の専守防衛を金枝玉条に堅守してきただけに、自衛隊の海外展開力は低い(今PKOなどのため補強中だが)。そのためこの補強はかなり意味がある。石油が日本にこなくなったら日本経済は止まるが、シーレーンの心配をしなくていいのもシーレーンを実質守っているのが米海軍だからだ。
ではなぜ専守防衛に固執するのか?といえば吉田ドクトリンの下、それ以上の防衛費を払いたくないからだが、もうひとつ、法的制約つまり憲法第九条がある。憲法第九条とは、
「第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」
まともに読めば、自衛隊でさえ違憲なのだが、自衛隊なしで日本が生きていけるほどいい世界でもない。仕方なく理想と現実のギャップを埋めるため、内閣法制局(政府の法的見解を担当)が尋常ではない想像力を以て拡大解釈し、自衛隊は軍隊にあらず「国際紛争を解決する手段」に相当しない自衛権(国土防衛)は憲法九条に抵触せず、と主張。
かなり無理のある話だが、この第二項を削って自衛隊を合憲にするには、国会両院の総議員の2/3以上の賛成票+国民投票の過半数票が必要で、実質無理といわれるためこうした苦しい言い訳をせざるを得ない。ではなぜそもそもそんな条項が憲法に入っているか?というと、憲法発布当時はまだアメリカの占領下にありかつ冷戦前だったので、アメリカが日本に再軍備をさせまいとしてできたから。しかし、そのアメリカが冷戦がはじまるや、日本再軍備の方向へ変心したので、話がややこしくなっている。
2)覇権国アメリカへの確実なチャネル
これも前回説明したが、若干以下補足しておく。
覇権国というものは、世界のあらゆる主要チャネルへのアクセスがあるもの。日本とは比べ物にならないくらいインテリジェンスに力を入れているわけで、膨大な情報を入手する努力をしている。そのため、ここからある程度情報収集ができるのは大きい。とはいえアメリカが知らせてくる情報は、アメリカが日本に知ってほしい・思わせたい情報しかないので、検証能力・作業は必要だ。だが戦前日英同盟の誼でイギリスから、情報や情報の読み方、国際情勢の理解の仕方などについて日本はいろいろ教わった。その頃までは日本は国際情勢を読みはずさなかったのに、日英同盟廃棄後はずしまくったことを考え合わせればその価値は計り知れない。
そして、何より米軍をホストしているということから、米軍・国防総省に強いパイプができる構造が確立する。そして、ここからホワイトハウスへの働きかけができる。また、これは双方向なのでアメリカにとっても、日本の上層部へのアクセス確保を意味しているわけで、アメリカにとっても、日本に敵意がなく友好的に考えていることが口先だけでなく分かるので、安心感が高まる。そのために、戦前黄禍論といわれ懸念された日本の台頭が戦後平和裡に行われた。実際、日米貿易摩擦が激しかった頃、アメリカで日本に戦争を仕掛けようという話はでなかった。
3)(地域)安定
かつては敵として戦った経験のある、世界経済第一位と第三位の国が戦わない友好的な関係を維持する決意を共有していることを公言しているわけで、これはアメリカ覇権に陰りがみえればみえるほど、世界の安定化に貢献する、大事な公約である。
そして、東アジアに限って言えば、自衛隊+在日米軍(、在韓米軍)が圧倒的な軍事力であり、周囲の国はこの突出した軍事力と自国の関係と国力を勘案して各自の軍事力を組み立てている。現在、在日米軍前提で北東アジアパワーバランスが構築されているのに、同盟を破棄し、在日米軍を追い出せばパワーバランスは一気に崩れる。そうなれば、自衛隊だけで抑止力があまり効かない可能性が高いから、パンドラの箱を開けたように、中国は日本や親米的な東南アジア諸国を一挙に中華圏にしようと策動し(平和的かもしれないし、武力が伴うかもしれない)、北朝鮮も何か画策するかもしれないし、ロシアもどさくさにまぎれて北海道辺りをかすめ取ろうとするかもしれない(第二次世界大戦直後、ソ連が約1週間対日参戦したことを理由に北海道を主張したことがある。幸いにも、アメリカがふざけるな、と一喝してくれたおかげで、北海道は日本に帰属し続けられた経緯があるので、ロシアが北海道を欲しても驚くに値しない)こうしたことが連続して起きれば、今の日本一国ではまず対応不能だろうし、こうした国々から売られたケンカを日本が買ってしまえば、アジア大戦に発展するかもしれない。
同盟のない場合を考えれば、よくよく地域安定に貢献していることが分かる。そして、今や世界経済をけん引しているのは中国等のアジア市場であるから、ここを戦場にしてしまうのは世界にも大打撃となるのだから、世界の安定にも貢献している。
よくアメリカは、日本以外の近隣諸国には「ビンの蓋」理論(日本の軍国主義がビンから出ないように日米同盟という蓋をしている)という説明を行っているという。こうした発言に怒る前に、そもそも日本に軍国主義が再来しないことをアジア諸国に十分に説明し、アメリカがそんなことをいおうものなら、そんな蓋をする必要はないよ、と言わせるだけの外交努力を、第二次世界大戦後から60年以上も過ぎているのに、長らく怠ってきたツケだと反省すべきだろう。
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