辛亥革命100年:傍系の日中関係、アジア主義の系譜(その2)

Yoshikawa_eyecatch

■日本台頭後のアジア主義

初期のアジア主義は、西洋一辺倒になっていた日本社会に対し、アジアという視点をリマインドさせるというカウンター・バランス的な役割を担った思想であるといえる。

だが、日露戦争後アジアの大国のステータスを獲得すると、日本は自国だけでなく、アジア全体という視点と、西洋との協調という従来の姿勢との間でバランスを取り、どう世界に問いかけるかを考えるだけの余裕、或いはミッションが生まれた。

そこで、大正デモクラシーの立役者・吉野作造のようなコスモポリタン派が生まれてくる。吉野は、欧米留学経験を持つ傍ら、袁世凱の子息の家庭教師もしていたことがあり、中国の自助努力に理解があった。そこで、日本が文化面でアジアのリーダーとなることをアジア主義が志向するなら賛成だ、だが民族主義でしかないならば、行きつく先は民族闘争でしかなく、反対だ、むしろ西洋をも包容できるようなアジア主義を志向すべきだ、と主張した。昭和期には、帝国主義、共産主義、ファシズムでもない、第四の道(地域主義)を模索した三木清、現在のEPA(経済連携協定)に近い構想を提示した蝋山正道等が続いた。

と、同時に、アジアの大国のステータス獲得は、西洋同様、中国大陸へ干渉し、搾取するだけの力を得たということでもあった。台湾、朝鮮半島を手中に納め、満州へと大陸へ食指を動かすようになると、同情派も、日本の干渉にNo!を突き付けられるかが問われるようになる。つまり、他人(西洋)が中国を食い物にするときには、義憤を感じても、いざ我が同胞が同じことをするときに、他人に対するのと同じくらい批判ができるか?が問われるようになった。以前紹介した、バランス感覚があるかないか、である。

北一輝そこで、自己批判できるものの中から、問題は中国ではなく、日本にあり、日本によるアジア搾取を止めるには革命が必要と信じる革命派が誕生した。日本に革命(昭和維新ともいう)をもたらすべきだ、として、中国での革命のエネルギーに触発された北一輝は、「日本改造法案大綱」(日本に革命が起きた時の臨時憲法案)を出版しようとするも、当然発禁対象に。それでも、アングラで読まれ、後に二・二六事件の思想的リーダーとして(本人はかかわっていないのに)処刑された。同志に1920年代にインドを始めイギリスの植民地、勢力圏の実態を著した「復興亜細亜の諸問題」の著者、大川周明もいたが、皮肉なことに別件のクーデター未遂事件で獄中にいたおかげで二・二六事件と無関係なことが証明され、生きながらえた。しかし、北、大川と同じく同志で猶存社の共同創設者、満川亀太郎も二・二六事件の頃病死したので、革命派は事実上解散。

一方、頭山満等、それほど自己批判ができない、帝国主義的同情派と呼べる人たちもいた。彼らがアジア主義者である前にナショナリストでありすぎて、バランス感覚に欠けた面が一番大きいだろう。ただ、情けをかける余地があるとすれば、彼らが過去に行った資金援助のお金の出所が三井物産等、まさに大陸で大儲けしようと企む商人たちから出ていたこともある。通常、革命を起こすには、武器とお金と多くの人々が必要である。イギリス当局からお尋ね者の孫文が、武器を買おうにも、欧米からは売ってもらえるはずもなく、しかも買う資金さえない。そういう状況にあって、巨額の資金、大量の武器を提供してくれるのは、日本の友人しかない。そして、日本の友人でも打ち出の小槌は持っているわけでもないから、彼らの伝手を使って、三井物産と「200万円と引き換えに満州を売る」といった取引を行わざるを得ない。(もちろん、孫文の後継者、蒋介石はこの取引を否定している)

辛亥革命前の孫文にとり、満州は、清王朝の満州族の故郷であり、伝統的な「中国」ではなく、またいかに落ちぶれたとはいえ満州族は満州くらいキープし続けるだろうという読みもあった。だが、日露戦争前夜ロシアが満州にある東清鉄道建設に中国人を労働力に求め、多く移民してしまったので、満州も中国の一部といつの間にかなってしまい、孫文も、やっぱり満州は返してくれと、後に言わざるを得なくなった。その相談をしに、孫文が病を押して頭山に会いに最後の来日をするのだが、帝国主義的同情派の頭山には、無理な相談だった。その頭山との会談の翌日、孫文は神戸で有名な「大亜細亜主義演説」をぶち、「西洋覇道の走狗となるのか、東洋王道の守護者となるのか」と聴衆に問いかけた。

松井石根まだ明治期から同情派だった頭山辺りは、なし崩し的に帝国主義容認の程度だったが、日露戦争前後生まれの世代となると、ジレンマに悩むことなく、積極的に日本の積極介入を支持しつつ、西洋の横暴を非難できる厚顔を持てるようになる。例えば、松井石根が会長を務めた大亜細亜協会のパシリ的な存在だった中谷武世がいる。1989年に出版の自伝「昭和期の動乱―中谷武世回顧録」では、日中戦争期は中国に拠点を置いて活動し、上海の租界地にある黄浦公園に掲げられた有名な標札「犬と中国人は入るべからず」に義憤を感じたと綴っているのに対し、過去の日本の行動への批判はおろか、当然見たであろう反日活動にはぴたりと口を閉ざしている。戦後40年以上も経てなお、バランス感覚を持って過去を振り返られなかったというのも悲しい。

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