辛亥革命100年:傍系の日中関係、アジア主義の系譜(その3)

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■「大東亜戦争」はアジア解放戦争だったのか?

 

この問いについては、国によって日本の扱いが異なるので、一概には言い難い。だが、終戦直後中国以外のアジアで何が起きたか少し触れておこう。

終戦当日、日本兵たちは玉音放送を聞いたけれど、具体的にどうしろとは言われなかった。(なので、統一的な動きはなく、一カ国でそうだったからといって他の国も同じだろうと想定してはいけない。)通常、戦闘停止伝達、武装解除が最初の課題となるが、誰に旧日本兵の武器を渡せ、とは誰も指示しなかった。もともと日本指導の下独立予定だったインドネシアの場合、日本軍の人員不足のせいもあり、現地民のリーダーとしてスカルノらが既に選抜されており、彼らに軍事訓練を施し、独立宣言文の起草などの事前準備がしてあった。そうしたこともあって、インドネシアは8月18日には独立宣言を行い、旧日本兵の一部は、イギリスやフランス軍がやってくる前に現地民に旧日本軍の武器を渡し、一緒になって独立運動を支えた。

ピブンまたビルマ(現ミャンマー)では、太平洋戦争前から現地民に宗主国政府を倒す手伝いをしてもらうため、日本に送り軍事訓練を施した人々が、独立運動の中心となり、独立の父となっていった。それが、アウンサン・スーチーさんの父親、アウンサン将軍である。太平洋戦争時の日本の唯一のアジアの同盟国、タイ(戦後何とか枢軸国扱いから外してもらった)のピブン首相(終戦当時)、ビルマ独立運動家のバー・モウは、終戦直後日本へ亡命し、陸軍中野学校出身の旧軍人たちの尽力でしばらく匿ってもらったが、GHQからの追及に耐え切れずと判断し、GHQに出頭し、無事自国へ帰って行った。帰国後ピブン首相に至っては、首相の座に返り咲いた。

インドは、日本軍がインドにたどり着けなかったために、日本との関係は一番損なわれなかったといえるだろう。戦中、インドの革命家、チャンドラ・ボースは亡命先のドイツから潜水艦で日本に移送され、前述のR.B. ボースらと共に、シンガポールで自由インド仮政府を樹立。自由インド仮政府は、日本軍が占領した旧インド領のアンダマン諸島とニコバル諸島を進呈された。一方、インド人たちは日本軍のサポートに回り、英印軍のインド人兵に日本側に投降しようと呼びかけ、一日千人くらい応じたという。さらに、インドに向かうべく日本軍と共に悪名高いインパールの戦い等で戦った。敗戦直後チャンドラ・ボースも日本へ亡命しようとしたが、移動中の台湾で事故死したといわれている。(但し、生存説もあり)自由インド仮政府は欧米に未承認だったので、インド本体には影響はなかったが、ガンジーという大指導者が中心となり、やがて独立を果たした。

チャンドラ・ボースこういうエピソードがある一方で、戦中日本人に協力したアジア人を、日本はトップ以外ほとんど見捨てていったという事実は、覚えておくべきだろう。商売的でも、心情的でも日本に近かった人たち(特に中国や朝鮮半島)は、売国奴などと罵倒され、多くは命を落としたり、財産を失ったりした。この記憶が、アジアで親日派と公言しにくい環境を一部構成している面は否めまい。

なぜ罵倒されたかといえば、「アジアの解放」を謳いながら、結局日本軍は占領中地元から物資、資源、食糧を徴用し、人々をさらなる貧困に陥れた。現に1945年インドシナ半島では、日本軍の強制供出、強制作付により、大規模な飢餓が発生した。(このためばかりとはいわないが、ベトナムではホーチミンら共産党が栄え、後々のベトナム戦争へ発展していく)インドネシアやマラヤ、フィリピンでも、反乱が起きていた。日本人はアジアの植民地を解放していい気になっていたかもしれないが、現地民にすれば、主人が欧米から日本に変わっただけ。そういう認識の中で、親日派と目された人々は、他のみんなが苦しいときに彼らだけ日本軍に取り入って甘い汁を吸っていたと睨まれた。

ちなみにこれと全く同じことがベトナム戦争直後行われ、そして今またイラク、アフガニスタンで起きようとしている。反省なき歴史は繰り返す。

また「大東亜戦争」と大日本帝国の崩壊が、他国の国家分断の引き金、或いは一要素となったことも忘れてはならない。解体させられた大日本帝国のうち朝鮮半島は、米軍とソ連軍が38度線を境に占領し、その後の韓国、北朝鮮の分断につながっている。サンフランシスコ条約には、台湾を放棄するといいつつも、誰(国民党か、共産党か)に返すとは書いておらず、法的な混乱の一要素でもあり、そのためばかりとはいわないが、未だに事実上中台は分裂したままである。

マラヤでは、日本占領下で分割統治(以前紹介した分割統治のコラム参照)を行い、華僑を冷遇する一方、インド人とマレー人を優遇したこともあり、独立後はマラヤ連邦が誕生したものの、民族間の対立は深まる一方で、結局この寄り合い所帯政権は、マレー人中心のマレーシア、華僑中心のシンガポールとに分裂した。

「大東亜戦争」がアジアの独立に貢献したという見方を聞く。だが欧米人に聞く限り、そういう話は聞かない。むしろ第二次世界大戦で疲弊した宗主国たちは、地球の裏側まで手が足りず、植民地経営のコストパフォーマンスが悪いから、という理由で撤退したという。つまり、現地に役人を送り、軍隊を駐留させ、その兵站を負担し、反乱を鎮圧するための軍事費負担が、植民地から吸い上げる富よりも大きいと判断された。

過去にもコストパフォーマンスの悪さから植民地を手放した事例はある。イギリスの東インド会社は、元々特許状で自らの軍隊を海外に駐留させ、外交条約を他国と結んでもよいという、現代の企業では考えられないほどの外交権を持ち、インドを統治していた。しかし、インド人の内乱・反乱やロシアからの間接的干渉(隣国アフガニスタンのリーダーをけしかけてイギリスに反抗させる等)が度重なると、東インド会社としては一社で負担するには統治コストが莫大になりすぎたので、イギリス政府に押し付け、英国軍とインド副王等が派遣されるようになった。(詳細は、羽田正著「興亡の世界史15 東インド会社とアジアの海」参照)

このように、植民地支配であっても、コストパフォーマンスが悪ければ手放す。

そして、欧米政府による植民地経営コストを大幅に引き上げたのは、アジア人の反乱である。欧米植民地時代では、白人が他民族よりも優秀だと洗脳していたが、日本人がその洗脳が嘘であることをアジア人の目の前で暴いたから、同じような手法で少数人数による支配がもはや不可能となった。却って、日本による搾取が、同じアジアの同胞は頼るに値せず、自らしか自らを守るものはいないと教えた。

北一輝は、辛亥革命後の1910年代の中国に身を置いて、その著「支那革命外史」でこう書いている。唯一日本が中国に誇れるものがあるとすれば、明治維新に触発され辛亥革命がおきたことであり、日本のナショナリズムが、他民族支配に甘んじるのではなく、戦うべきであるということを教えたのである、(それ以上に日本人が中国人に威張るいわれはない)と。その眼で当時の中国人と中国にいた日本人をよくよく見てきた北の言葉は、重い。終戦直後くらいまでの日本のアジアへの貢献という意味では、北の言をほとんど越えられなかったのではないだろうか。

だが、北の主張に納得がいかないならば、都合のいい事実だけを一部切り取らず、最低限アジア主義者や「大東亜戦争」が落とした光と影の両方を押さえておくべきだろう。さもないと、中谷武世の二の舞になるだけである。

<了>

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