シンガポール人材市場:日本企業の人気低迷、原因とその解決方法とは

singapore

昨年の秋にシンガポールを訪れたときのこと。現地の人材エージェント会社にて、いわゆる「現地採用」として働いている方とお会いしました。

彼はシンガポールの地で、日系企業を中心としたクライアント企業の採用活動を支援している。

採用対象は日本人だけでなく、当然現地シンガポール人もターゲットとなっているわけですが、そんな中、シンガポールの求職市場において、日系企業の不人気ぶりが目立つと嘆いていました。

ここでの不人気と言っているのは、日本人に対しての話ではない。シンガポール人が日系企業では働きたくないという状況が続いているそうなのです。

左はシンガポールの新しい象徴「マリーナベイサンズ」ホテル。右は金融街の高層ビル群。

 

――「ガラスの天井」制度が現地ローカル採用をシラけさせる

確かにそれは僕が中国で働いていた時、中国でも同じような状況があるというのはよく耳にしていました。いわゆる「ガラスの天井」という人事制度です。

一見、人事制度上、昇進の仕組みは整っており、成果連動型であれ、ある程度の年功序列型であれ、現地法人のトップへと登りつめる階段は用意されているように見えます。

しかしながら、実際には、トップは日本にある本社から定期的に派遣されてくる「駐在員」によってそのポストは占有されており、現地のローカル採用の社員は、決してそのポジションに就けることはないというもの。

一定期間、駐在員がその任務を務め、通常だと平均的に3年~5年くらいの任期で帰国し、別の駐在員がやってくるのが通例です。

それゆえ、現地のローカル社員からすると、その現地法人トップへのキャリアパスの最終部分には透明のバリア「ガラスの天井」が存在する、というわけです。

これだけではありません。日本の年功序列型の人事制度がまだまだ多く存在し、現地の人事制度をローカライズせずに日本型を持ってきている会社も多い。「いるだけで給料が上がる」は、逆に言うと「がんばっても給料が上がらない」に近しい。

それゆえに優秀な人材ほど、成果報酬型の外国資本企業に移り、パフォーマンスを出せない人材ばかりが日系企業に残ってしまっている、というのです。

さらに前述の「ガラスの天井」問題があり、シンガポール人にはめっきり人気がないということになります。

 

――「駐在員」の超高待遇コストが価格競争力を失う要因に

人気がないだけでも、優秀な人材確保の観点から問題なのだが、さらに駐在員問題はもう少し根が深い。

この日本から派遣されてくる「駐在員」のコストが異常に高いのです。

僕自身、外資系であるが日本の法人から中国へ派遣された「駐在員」を務めていた経験もあり、また「現地採用」という立場でも働いたこともあるので、その両者の待遇の違いというのは身を持って体感しています。

まずベースの給与体系が異なり、原則的に日系であれば日本法人に所属していた時の報酬から下がることはまずありません。(為替レートの変動により目減りする可能性はあるが)

また、多くの駐在任地において、その出張手当のようなものが支給されます。これは危険地手当のような意味合いもあったり、任地の物価水準などによっても変動します。よく言われるのが、大手商社や外交官などが、現地駐在している間は現地のコストは上記の手当てで賄い、基本の給料が丸々貯金できるというアレです。

さらにこちらも任地によって異なるが、日本では考えられないような豪邸や高級マンションに住んでいることも多い。そして、その多くはお手伝いさん(メイド)を雇っているケースもあります。

上に挙げたこれらのコストが現地法人の運営上、結構なインパクトを与えているということです。確かに計算してみるとその額は決して少なくないでしょう。

このしわ寄せは必ずどこかへ来ます。製品やサービスの価格、はたまた他の人件費の抑制か。

いずれにしても、競争力の低下につながることは間違いないでしょう。前述した人材エージェント会社の方もそこを指摘されていました。

 

 

――「駐在員」のコストが高い理由とは?

では、なぜそもそもこの「駐在員」というポジションはこうも厚遇されているのだろうか。

最初に挙げた、本社の給与水準というのは、こればかりは容易には変更できるものではないし、ある意味妥当と言ってもいいでしょう。

しかしながら、その昔、通信もままならず、テレックスを打っていた時代や、中国や東南アジアと言えば、発展途上国の代名詞だったような時代には、治安だけでなく、衛生面、家族の教育面など、挙げればキリのないくらい劣悪な生活環境でした。

そんな時代には危険手当があり、セキュリティ上しっかりとした家に住む必要があり、そこにコストをかける意味がありました。

ですが、上海にしろ、バンコクにしろ、シンガポールにしろ、はっきり言って日本と同格、または日本よりも生活環境がいい場所も多い。そして物価も遥かに安く、そうした場所で、本当にそれほどの厚遇が必要なのかは、ちょっと疑問が残ります。

シンガポール中心部のショッピングセンター

また、他に希望者がいないので待遇が良い、というのもあるのでしょう。特に最近の若者のデータを見ても、確かに海外勤務希望者が減っているらしいのです。もちろん、社員の性格にもよるのでしょうが、僕からすると、こんな厚遇のポジションで色んな多様性が味わえるポストがあれば、厚遇じゃなくても率先して手を挙げても良さそうなものに思える。

中国でも日系企業はガラスの天井と言われ続けていましたが、僕の印象では、中国では外資は圧倒的にローカルの人間をトップに据えてきた。もちろん、こうした人事はコストだけの問題ではなく、大多数を占めるローカル採用のモチベーションに大きく影響を与えていたはずです。

 

――原因は駐在員に問題があるのではなく、配属する本社側の問題 

で、ここで二つ目の疑問に移ります。なぜ、そんな高コストな人間を「駐在員」として置かなくてはならないのでしょうか。そもそも現地に詳しく、そして3-5年のような短期間ではなく、もっと長期に物を見ることができるローカルで優秀な人間を配置することはできないものでしょうか?実際、外資系企業はそのようにしているケースが多いのではないでしょうか。

ここに言語と多様性の受容という問題が立ちふさがります。特に問題は本社側にあると思われる。日本にある本社側の意思決定組織の中に、グローバルな人材で多様な価値観が受容でき、言語に堪能な人材が少ない。

そのため、どうしても日本語で「ツーカー」なコミュニケーションを取ることができる「駐在員」を現地に送り込むことになってしまうのです。

よく「駐在員は無能なのにあんな良い待遇で・・・」という批判の声も聞きますが、原因は彼らの個人の能力ややる気の問題だけでないのです。(もちろん、駐在員の方々にも有能な方々はたくさんいらっしゃるかとは思います)

 

 

――本社側の変化と「和僑」の登場が日本企業を変える!

問題提起だけだと、愚痴に近い殴り書きになってしまうので、ここでは2つのアクションプランを示したいと思います。

まず一つ目は、上記の原因にあるように、本社側のグローバル化です。ここ数年、ちょうど一昨年後半くらいから、ちょうど僕自身が帰国したくらいのタイミングから、一斉にグローバル化が騒がれるようになりました。

昨年くらいから大手企業を中心に手を打っているところだと思いますし、僕の知る限り、多くのコンサルティング会社、研修企業などもあいまって、グローバル文脈の経営改革にテコ入れを始めています。

「ガラスの天井」についても、時間とともに変化していくと思います。

ここは企業を取り巻く業界全体の流れと、企業に所属している役員・従業員のやる気、不断のコミットメント次第で大きく改善が見込めるのではないかと思っています。

 

次に2つ目ですが、「日本人現地採用組」の奮起です。

「現地採用」について、前段ではあまり説明してませんでしたが、「駐在員」のような本社スタッフの派遣メンバーではなく、現地でローカル採用され、ほぼローカルの現地人と同じような待遇のスタッフのことを指します。

彼らには「ガラスの天井」が適用され、トップに登りつめたり、本社へ転属することなどは今まで稀なケースでした。

時に「現採(現地採用)のやつはねぇ・・・・」と卑下されるケースもあります。しかし、そこにも理由があり、やはり本社のビジネス全体像を見ることができなかったり、日本の商習慣、ビジネスルールを理解できない日本人スタッフも多くいます。

それでは、ただの日本語がうまい現地人スタッフになりかねません。

今までは駐在員ですら、本社へ戻れば「異色組」として扱われ、出世の王道にならない場合が多かったのですが、ようやく時代が変わってきました。

本社では、新興国をはじめ、海外のなれない環境下でも活躍でき、また日本語も操れる人材が枯渇しています。

僕は、ここに大逆転チャンスがあるかと思っています。

特に若い世代では就職難だとか、日本の経済に未来がないとか、大企業すら安心できない・・・とか、結局は学歴社会だとか、、、そんな想いがありますが、どうせそのような状況であるのであれば、一発逆転海外で経験を積み、日本に逆輸入されるようなキャリアパスを目指すというのはいかがでしょうか?

その昔、サンクチュアリというマンガがありました。そこでは日本の将来を杞憂した若者が世の中を変えるために、多くの若者たちを世界中に「和僑」として送り出しました。中国でいう「華僑」の日本版ということです。

僕の知人ではこのような「和僑プロジェクト」と称して、世界にハバタク日本人を創ろうと活動しています。現代版サンクチュアリとも言えるでしょうか。

こんな若者たちが増加し、海外から日系企業、および日本に変革をもたらし、また本社サイドでは不断の努力によってグローバリゼーションを推し進める。

人材という観点から言うと、このような2つの側面からのアプローチによって、日系企業の海外におけるパフォーマンスはまた徐々に高まってくるのではないと考えています。

アジアファイナンスの中心地・シンガポール金融街の夜景

 

さてさて、本年最初の寄稿はものすごく堅いテーマになってしまいました。賛否両論あるかとは思うのですが、刺激的なもののほうが意味があると思いまして、ザクっと書いてみたつもりです。

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次回以降、こんなことを書いてほしいとか、開国ジャパンでこんな企画をやってほしい、とかも募集しております。

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