バンコクマダム録(7)お手伝いさんのお話

前稿でご紹介したスーパー駐妻Nさんのご自宅にお招き頂いて、そこで働いているお手伝いさんのプラーさんに会った。

 

海外駐在と言えば、お手伝いさんとドライバーさん。
ゼッタイいて当たり前ではないけれど、「うわぁ~!スゴイ生活!」と言われる代名詞の2大挙党。

でもわたしは、大人2人の生活に、お手伝いさんは無くてもいいと思っていた。
実際子供のいない夫婦2人世帯での駐在では、お手伝いさんをつけていない所がほとんどだと思う。

しかし一方で、お手伝いさんを雇うということは、日本人としてタイという発展途上国に貢献する、ということにもなるのだ。

日本人がタイに来て働くということは、駐在とはいえ、タイで実現できる雇用の機会を、それで1つ奪うことになる。

よって基本的には駐在員の家族が現地で働くことはできず、労働許可証が降りることも難しい。
だからこそ、お手伝いさんを雇ったりして、タイ人の別な雇用の機会を作ることで、タイと言う国に貢献できる部分があるのだ。

 

 

 

 

タイのような経済格差の大きな国で暮らして思ったことだが、多くを持っている人から多くを持たない人へ、物やお金が流れていくことはごく当たり前のフローである。

 

日本でも、昨今は経済格差が拡大したと言われているが、諸外国のそれと比べたら本当に雲泥の差だと思う。タイには贈与税すらないのだ。

 

 

そんな日本のような格差の狭い社会で生活していると、お金や物を人様に与えることに「わたしなんかが、恐れ多い」と思ってしまいがちだが、タイでは多くを持つ者は、与えられるものを喜んで与え、多くを持たない者はそれを喜んでで受け取る

すごくシンプルな、人間本来の姿である。

 

そういった「タイへの貢献」ともいえる旦那さんや会社の視点と、「ゆう子の体調も良くないから」という旦那さんの私への気遣いから、お手伝いさんを雇うことになった。

 

私のお手伝いさんになってくれたプラーさんは、お手伝いさんの中では若年齢ながらも、私より6つくらい年上のお姉さんで、それにもかかわらずもう小学生になる息子さんがいた。

僭越ながら点数で評価させて頂くと、仕事は100点満点とはいかなくても80点くらい。
しかし誠実さと性格・器量の良さで120点あげていいと思えるほど、信頼できる良い人だった。

 

 

わたしには、プラーさんを通して知ったタイがたくさんある。
それはいくらお金を積んでもきっと得られなかった世界で、私は今でも、本当に彼女との間に恵まれたご縁に、深く深く感謝している。

わたしがプラーさんを見ててよく思ったのは、子供や家族と一緒に暮らすことが当たり前にできる環境にあることが、どれだけ恵まれているか、ということ。

 

 

 

 

 

 

こちらの方はプラーさんではなく、イメージ。

屋台のおばちゃん。

良い笑顔してるなぁ!

 

 

 

彼女はタイ東北部の出身だったが、子供を実家に預けて、バンコクに出稼ぎに来ていた。
これはタイではよくあることである。

タイでは粉ミルクのCMがよく流れている。
バンコク都市部の大きな病院では母乳保育の大切さを訴えるようになってきているが、実家も自分の家計も全て養っているプラーさんのような出稼ぎ女性達は、出産後早く都市部に出て働くため、どうしても子供を実家に預けなければならず、子育てするために粉ミルクが必須なのだ。

 

わたし、長い長い帯同待機期間の間に、どれだけ思ったことだろう。

「家族は一緒がいい」って。

 

彼女は子供と過ごせる、タイ正月や年末年始などの短い休みを楽しみに、毎日毎日、日本人の家に出向いて家事をしては、一生懸命稼いで、せっせとそれを実家に仕送りしている。

しかもその職場である日本人の家では、いつも家族揃ってご飯を食べたり、旅行に行ったり。そうやって毎日当たり前に共に暮らす姿を、日々目の当たりにしているのである。

ちなみに、日本のオフィスワークのような週休2日ではなく、お休みは日曜日だけ。
そのお休みすら、引越しなどでイレギュラーな仕事を頼まれれば、出勤する。

 

プラーさんは子供が大好きで、あやすのも上手だった。
我が家には子供こそいなかったものの、そういう彼女の事を思うと、ときどきすごく切なく思ったりしたものだ。

彼女は自分の身の上話をするようなタイプではなかったが、わたしがある程度タイ語を使えるようになると、わたしに時間や身体の余裕があるとき、ときどき子供や実家の親御さんの話を、ぽつりぽつりと話した。

子供が電話でこう言ってくれただの、子供の学校の成績がどうだっただの、子供が出家に出て行ってどうだった、だの。

 

 

 

 

2軒目に入居したお家のリビング。

 

 

 

 

もともとお手伝いさんにきてもらう気があまりなかったので、プラーさんがうちに来るのは週2回、1回2時間だけだった。

だけど彼女の生計も考えると、拘束時間が少ないからと、少ない賃金にするのは気が咎めたので、拘束時間の割には高給を出していた。

フルタイムのお手伝いさんを雇っている家庭と比べたらもちろんずっと安価だが、「無くてもいいかも」と思うと、我が家にとっても決して安い出費ではなかった。

 

それに私は1人の時間が好きだし、だらだら寝たい気分の時にお手伝いさんが来ることで眠れない気がすることもあり、やっぱり無くてもいいかな、と思ったりもするのだけど。

だけどこれはあまり大きな声で言えることではないのだが・・・。彼女がいてくれたお陰で、1回結婚したことのある私でも、自分で自宅のトイレ掃除をしたことがない

実は、現在のバリスタの仕事を始めて、初めて学校のトイレ以外の、トイレを掃除したのである。

一時プラーさんが産休をとって数カ月お休みした時も「どうしてもトイレだけ掃除できなかった」と旦那さんに話したら、「オレがやるからいいよ」と旦那さんがやってくれていたのだ。

 

うーーん。これだから駐妻さんって、やっぱり恐ろしいですね?

 

そんな彼女が初めて我が家に仕事に来てくれた日。

掃除用具も何もかも、何を準備しておいたらいいかもよくわからないので、その辺のことを、ジェスチャーと紙に書いて話すところから、私達は始まった。

当時の私がわかっていたタイ語。「アニー」=これ、「ティニー」=ここ、の2単語で全てを済ませた。

「アニーが、ティニーで、ティニーが、アニーでしょ」と、指さし確認の要領。

プラーさんとすらすらコミュニケーションをとっていた、スーパー駐妻Nさんの姿が、頭をかすめていた。

 

「わたしもあぁやって、ぺらぺらタイ語をしゃべれるようになりたい!!」

 

Nさんとプラーさんがいてくれたお陰で、火が付いた私のタイ語への情熱。

よし!まずはタイ語学校へ通おう!と思った。

 

 

そんなわけで、次稿、タイ語のお勉強へとお話が続きます。

 

 


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