サッカー開発途上国での挑戦

現在
私はインドのデリーでサッカーの監督をしています。トップチームのトレーニングや試合の指揮のほか、選手の発掘、ユースやジュニアチームのコーチの指導が主な仕事です。
日本を出てからの7年間、開発途上国ばかりでサッカーの指導をしてきました。FIFA(国際サッカー連盟)ランキング100番台の国ばかりで、たぶんこれからもしばらくはそういう国々を転々としていくのだと思います。ヨーロッパや日本に比べて環境は格段に悪いのですが、どこも根強いサッカー人気があって、これからどんどん伸びていくことを想像させる勢いがある、そんな魅力にとりつかれているのかもしれません。実際、これまでの3か国もプロリーグが存在し、外国人プレーヤーやコーチが活躍しています。
きっかけ
そもそも海外で指導者にチャレンジしたいと考えたのは今から15年前、大学時代に指導を受けたオランダ人監督の影響です。それまでの練習は体力づくり中心でつらいものでした。ところが、その監督のトレーニング法はゲームの流れのなかで各選手がどう動くべきかを教え、チームや選手のレベルに合わせて柔軟に指導法を変えるといったもので、新鮮さを感じると同時に衝撃を受けたのを覚えています。初めて触れた世界レベルのサッカーに自分もいつかは近づきたいと志すようになりました。
とはいえ、サッカー三昧で体力のほかに自慢できる能力がありません。何から始めたらよいかわからなかった時に、たまたま参加した大学の就職説明会で青年海外協力隊のことを知りました。
経験
協力隊のサッカー隊員として派遣されたのはバングラデシュ・サッカー連盟。そこでユース育成に関わることになりました。はじめは、頑張ればユース代表コーチも夢じゃないなどと淡い期待を抱いていたのですが・・・。
気合十分で着任すると、最初に協会から指示されたのは中学生チームの指導。しかもグランドはスラム街にある市場のど真ん中で、シュートをすると買い物中の人ごみのなかへボールが飛んでいくこともしばしば。また、健全であるはずのグランドには浮浪者や麻薬の売人などがたむろしていて、ユース代表チームの指導どころか、ここでどうやってサッカーするの?という場所からスタートしました。ほかにも休耕中の田圃とか、牧場かと思うくらいたくさん牛がいて糞があちこちに落ちているグランドなど、ありとあらゆる場所で活動しました。
着任当初2か月くらいは理想とのあまりのギャップに落ち込みましたが、次第に環境に慣れるもので、だんだんと多少のことでは動じなくなりました。それに、しばらく指導をしているうちに、「こんなところでサッカーできないだろう」と思っても地元の子どもたちにとっては大切な練習場で、サッカー選手になりたいという夢を持ってボールを追いかけている場所だということに気づかされたのです。現地の人と同じような生活をして一緒に行動しているうちに、いろんな視点から物事をとらえることができるようになったのかもしれません。
よい練習場を確保するのが大変なバングラデシュでも、サッカー人気は高いものがありました。地方に出張指導に行ったりすると村中総出で観にきます。首都ダッカなどからわざわざ選手を招いて試合を開催する村も結構あります。相原ユタカ選手も他の代表選手らと村対抗戦に招待され大活躍していました。
下学上達
結局ユース代表コーチの目論見はもろくも崩れ去りましたが、バングラデシュでの教訓から私は新しい土地で生活する際に3つのことを大事にしています。
1つ目は、その土地の文化や習慣、または食生活などを自分の目で見てよく観察すること。そして合わせられるところはなるべく現地に合わせる。3年住んだスーダンでは特に、みんなで同じ皿(時には洗面器)から食べることが親交の第一歩なので、肩を並べて同じものを食べ、スーダン人と間近に触れ合ったことが信頼を生みました。
2つ目は、コミュニケーションに努めること。スーダンは軍事機密とかで地図さえもなく、ネットや本などから入る情報も限られていたので、現地の人とのコミュニケーションは特に重要でした。サッカーの指導においては考えていることを伝えることも大切なので、必要に迫られた部分もあってアラビア語を学んだりもしましたが、言葉そのものだけでなく、「どうやったら相手に伝わるか」という積極的なコミュニケーション能力を高めるよう努力しています。実際に自分でプレーして見せたり、ボディーランゲージを使ったり、絵に描いて説明したり、映像で見せたり、または戦術版を使って説明したり、あらゆる方法を模索しています。
3つ目は、これは海外に限らずのことなのですが、目標を持ち続けて、それに向かって邁進することです。大きく環境が変わったり、サッカーの場合国によってサッカー観が大きく違ったりして、挫折感を味わうこともあります。でも、目標をしっかり持っていればいずれ目の前が開けてくるし、自分が何をしなければいけないのかという信念を持っていれば、周りの環境によってそれがブレることもないと思います。私にとっては、世界で活躍できるサッカー指導者になるという目標を持って、そこに向かっていろんなことにチャレンジすることを大事にしています。
発見
日本はほとんどの人が同じ言語を話し民族も一緒という世界でも数少ない国だと思います。そのせいか、私は海外に出るまでは日本は世界基準で、自分で当り前と考えていることは当然世界でも当り前だと考えていたところがありました。でも、実際に外にでていろいろ経験してみると、いろんな国にそれぞれの「基準」がありその定義は実に曖昧なものだということに気が付きました。
こうした新しい発見をサッカー指導者としての自分の成長に繋げつつ、これからもさまざまな経験を楽しみながら活動を続けていきます。
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