正解はあるのか?・・・システム開発の現場から文化の違いを知る

「学びの素晴らしさは、誰もそれをあなたから奪えないことだ」

BB. King

2007年頃の和田にとって日本の基準こそがスタンダードだった。いや、それ以外なんて知らなかっただけと言えるでしょう。
要件を100%満たす完成度どころか、それを超えるものを使い手の立場にたって細かな調整を行う。モノ作りにおいても、それを使う人々への気遣いや、自分を曲げず、限られた時間の中で、納得できる最高のものを作ろう。こんな気概がスタンダードだった。まぁ、多少美化して書いたかもしれない。

そして、それらが、かつて多くの国が日本を賞賛する際に必ず口にする言葉でもあるように思う。

企業が国を跨ぐ動機は、1.如何に安く作り(サービスを含む)、それを高く売るという、生産に関する動機や、2. 外国を市場と見て自国製品を売りたいという動機の二つがあると思う。
今日書く内容は、生産の動機から派生した、もしかしたら、日本を代表するグローバル化した会社(特にメーカ)が、なぜ、かつて程の賞賛を得られなくなったかの、小さな一因と考えている事象を書きたいと思う。

上海に渡った和田(詳細は第一回ご参照)は、あるメーカのグループ全体の財務システム構築のコンサルティングを行っていた。(1)財務を効率化するためのスキームの構築  (2)顧客自身が雇った中国当局ご指定のシステム開発ベンダーをコントロール、さらには(3)顧客が戦略的に採用した財務担当人材の育成を行う、この3つが主立った仕事だった。

(1)の仕事は全体的にスムーズに進行していた。財務担当が目指したのが日本で行っているスキームを中国にコピーするというものだったことと、担当者の彼ら/彼女らが「日本人」だった事だ。
そして、並行して実施していた(2)の仕事。(1)のスキームを実現するための要件を当方がまとめ、彼らがシステム開発しやすい状況を作り、後は、こちらがプロジェクトの進行管理をするというものだ。
すべてを書く訳には行かないので、みなさまにもなんとなくイメージがつきやすいものをピックアップしようと思う。

【和田が記載した要件(簡易版)】
1. 外国送金の際は、相手の顧客名は半角の英文である必要がある。
2. 送金金額が一定額を超えた場合、総経理(社長) の決裁を必要とする。一定額は通貨毎に設定可能とする。
3. 決済は当日中に銀行へデータを受け渡すものとする。

通訳を介してではあるが、相手方も「簡単だ、すぐに対応できる」と言い、この部分の見積もりはほとんど無料に近いものとなった。
そして彼らがしばらくして設計書を送ってきた。内容を見てみると、和田の書いた要件の詳細化がされているようには見えないので、理由を聞いてみた。
「大丈夫だ。君の要件定義書をRefferするようにAppendixに書いてある」
確かにその記述はあった。しかし、それだけでは設計としては成り立たないこともある。少し心配だったが、近く予定されているデモで確認することとした。

「中国語も入力できるが、これがプロトタイプだからか?」
デモの当日、和田は通訳を介して質問した。答えは、Noだった。
「承認する時に、英語か中国語であるかは、見たら解る。システム的に対応する必要は無い」
これが彼らの答えだ。続いて、和田は以下のように反論した。
「この会社は日系企業だ。日本語を業務で使うこともある。そのため、全角の英語で入れてしまうこともある。その場合、SWIFT(外貨決済網)へのデータ・インタフェースの際、エラーとなってしまう」
先方は予想していたかのように言った。
「エラーとなったら、また入力し直せば良い」
そうだろうか?
「エラーは銀行が受け取ってからしか検知ができない。これだと、翌日に1からやりなおしとなってしまう」
「そのケースは仕方が無い。ユーザが入力を間違えたのだから。ユーザの責任だ」

そうならないために英語の入力チェックを入れてくれと言っているのだが・・・。

ちなみに、この時、和田は中国語はまったくわからない状況だった。当時は、今でも仲の良い中国人女性が全面的に通訳してくれていた。とても優秀なのだが、ロンブーのファンの彼女の訳は、日本語の訳が笑いと皮肉含みの意訳のような気がしてならない。

この後、後述する別件のおかげで、和田は顧客も内部も含め説得し、この仕様を了承した。
そして、(3)の教育の際も、従業員の方々から「ここは英語で入れないといけないのですね、解りました。責任をもって英語で入れます」と心強い言葉をもらった。本番では、3回くらい全角英語で入れ、失敗したが従業員一丸となってフォローを行ってくれた。

その時、なぜ和田は受け入れられたのか。
先ほどのベンダーのとのデモのあと、所用があり、近くの銀行に立ち寄ったのが、受け入れられたきっかけとなった。

上海に来て間もない和田は、当地の通貨、人民元をあまり持ち合わせていなかった。そのため、持参した日本円をレートが良い時にちょっと交換するのが日常的な作業となっていた。
しかし、その日、和田は人民元を手に入る事ができなかった。

簡単な英語での会話を回想してみる。

和田「人民元ください。はい、これ5万円」
窓口「無理。帰って」
和田「え? なんで?」
窓口「システム動いてないのよ」
和田「はぁ? どこの支店いってもそうなの?」
窓口「そうだよ。全部エラー。ほらこれ見なよ」
見ると、Windows端末に中国語のエラーのような文字列が並んでる。
和田「いつからなの?」
窓口「昼からよ。仕事が楽で良いよ」
和田「今日どうしてもお金がいるんだけど」
窓口「他の銀行行って」

そして、和田は他の銀行に行った。

他行窓口「あっち、交換できないから来たの?」
和田「そうだよ」
他行窓口「おかげで、忙しくて、本当にいや」
と言って、忙しいわりにはゆったりと両替してくれた。

そこで、和田は気になって、元の銀行に戻った。
通常通り、窓口は開いている。せっかく永い時間並んだにも関わらず追い返される人も多い。守衛と言い合いになり、やっとのことで、入り口に「今日は両替不可」の張り紙がなされた。

会社に戻り、仲の良い中国人スタッフにその人の銀行での出来事を話してみた。
そうすると、ATMからは偽札が出ることもしょっちゅうあるらしい。とまっている事もざらにあるとのこと。
「では、みんなはその事をどう思っているの?」
「仕方ないし、そういうものだと思っている」ここのATMが止まったわけではないが・・・。

考えたあげく、この時の経験で、この案件をこのまま進めようと決めた。

いろいろ追っていくと他にもこの手の出てくる。

「銀行の窓口で送金完了したんだけど、相手が受け取ったのは3日後だった。明日には届くと言われたんだけどなぁ」
この理由は、銀行の依頼書の流通経路の問題が絡んでいた。当時は完全に電子化されていない衛星支店のような窓口もあった。一日にたまった伝票を支店に持ち込んで処理するのだが、運が悪いとその日に支店で処理してもらえない。そうすると、次の日に支店において、送金処理がなされる。これもタイミングが悪いと、受け取り銀行がその日のうちに入金処理をせず、翌日になることもある。
ここで言う運というのは、先ほど和田が記載した「全角英語で送金依頼をかけた」程度のトラブルが発生したイメージだ。

さて、和田は文化というか、その国の状況を受け入れるというある意味大人(?)な対応をとった。
結果、プロジェクトは成功。問題が起きる事が前提で、さまざまな対応がなされ、大きな事件もなく、何年も業務が継続される結果となった。
理由としては、問題がある前提でそのメーカの取引先銀行に交渉したり、メーカの子会社に交渉した結果、「エラーがあるのは当然だから、その時は仕方が無い」くらいに受け入れてくれるケースが多かった。

あるとき、ふと、そのようなプロジェクトが中国全土で発生していたら、どうなるのだろうか、と、上海の粋なバーで考えていました。

和田が担当した会社のスループットを当初考えていたものを100%とすると、おそらく、60%くらいになったかと思う。要は、問題の発生する前提でさまざまな交渉や事務フローを構築したので、問題にはならないが、スループット自体は低下している。
これが、複数の会社で発生しているとすると、多くの物事はだんだん当初の想定より遅くなっていくような気がする。

日本の製品を日本のクオリティで他国で作るのは、基本的には難しいことなのかもしれない。特に文化の違いを理解し、現地の人の意思を汲み取って実行すると、その連鎖で、想定した結果に遠いものが生まれてしまう事もあり得る。

部分的には成功したように見えても、その企業のグローバルでの最適化をなし得ていないこともあるケースもあり得るのかもしれない。

さて、和田が海外赴任されて間もない方にアドバイスしたいのは、以下です。

1.海外支社の成功が本当に会社全体の成功かを良く考えてプランを練ってください。
理由は、今回のコラムそのものです。部分最適の成功がなされましたが、もしかしたら、それは全体最適につながっていないかもしれません

2.文化を受け入れるだけでなく一歩進める
「当地の文化にとけ込む=当地と同じにする」は、成長が見込めないかもしれません。だからと言って日本と同じにすることは当地にとって大きな変化。大きな変化は時には多くの反発と組織の崩壊を招くこともあります。どこまで変えられるかを慎重に議論し、適切なプロジェクト推進をお勧めします。

ではまた、来月お会いしましょう。
次回のヒントは以下の画像です。

次回は日本の商品です。


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