パン用のイーストが麻薬に早変わり?
パンを食べてハイになるって話かい? イースト、それはパンやビール作りに欠かすことのできない微生物。そのイーストが、今、ちょっと別の方面にも活躍の場を広げようとしています。スタンフォード大学の研究チームが、イーストを使ってただのお砂糖をオピオイド性ドラッグに変えてしまうというライフハック(と言っていいものかどうか…)を生み出しました。 昨年、イーストをテバイン(オピオイド系アルカロイドの一種。モルヒネ、オキシコドン、アヘンに変化可能)の先駆体へと変化させられることを発表した生物エンジニアのChristina Smolke氏。今回は、23個の遺伝子をいじることで、微生物によってテバインと鎮痛剤であるヒドロコドンを生み出せることを発表しました。ニューヨーク・タイムズ紙にSmolke氏自らが語ったところによると、これは「イーストの遺伝子設計において、最も複雑な化学合成」なんだとか。 この化学合成、複雑なだけではありません。最も物議をかもす化学合成とも言えるでしょう。 化学の世界において、イーストが自身を他のものに変化させることができるというのは大きな発見であり貢献です。しかし、今回のようにイーストをモルヒネやヘロインのような麻薬物質に変化させるというのは、行き過ぎだという声もあがっています。今年の5月には、マサチューセッツ工科大学のKenneth Oye教授とそのチームが、薬物関連機関はバイオテック化学が違法ドラッグ市場に不本意にも利益をもたらしてしまう可能性についてあまりにも無防備であり、対応が追いついていないと指摘しています。しかし、Smolke氏は、これを大げさな心配だと一蹴。 Smolke氏の編み出したイーストから麻薬を生み出す方法は、まるで実用的ではないというのです。鎮痛剤Vicodin1錠分のヒドロコドンをとるのには、イースト4,400ガロン(約1万7000リットル)が必要です。これは、例えるならば、スーパーでポピーシード(ケシの実)大量に買ってきて、それを濃縮してドラッグを作りだそうとするようなもの。それでもいつかはビールみたいに、お家で自家製ドラッグなんて日がくるのでは、なんて言う人もいますが、Smolke氏の方法はとても複雑。それなりのツールと環境が必要で、素人が手をだせるようなものではありません。実際のところ、一般家庭の環境でこの方法を試したところ失敗に終ったといいます。つまり、悪用するにはあまりに複雑で、非効率的で、まったく現実的ではないのです。 将来的にはどうなるのかわかりませんが、今のところイーストからドラッグを作るのは「できる」けれど「できない」のです。それでも、薬品業界には大きな研究の成果となりました。 source: Science、New York Times Maddie Stone – Gizmodo US[原文] (そうこ)